コラム127:脳の仕組みと方向感覚

 11月に開催された橘樹今昔物語の際(前々回コラム参照)、JR南武線の武蔵溝ノ口駅で降りて、バスで会場に向かった。バス停から降りて歩いている時、ふと大通り沿いにある敷地の広い古風な屋敷の脇を通る時に、「この屋敷は、1年前の多摩川今昔物語で通った!」という記憶が蘇った。

 

 多摩川今昔物語は対岸の二子玉川の会場をスタートにして行われた。ずっと明治期の地図で走っていたから、武蔵溝ノ口を通ったという記憶は片鱗も残っていなかった。この屋敷にCPがあったかも定かではないが、なぜか、大通りに出る手前に敷地の広い瀟洒な屋敷があり、「こんなところにこんな古めかしい屋敷があるのだ!」と、明治期の景観と関連づけて印象に残ったことは覚えていた。

 

 自分の中に地名の記憶は全くなかったし、この時のこともそれまで思い出すことはなかった。だが、位置関係、そして特徴的な景観の記憶が残っていて、それが今回別の視点から見た景観によって活性化されたのだろう。

 

 心理学では、こうした現象をプライミング(先行)刺激と呼ぶ。人間の記憶はコンピュータとは違い、脳の中の神経細胞が相互に刺激しあう結びつきの強さによって維持されている。その結びつきは多くの場合意識できない。だから、それまで意識もしなかったことが、突如なんらかの刺激によって思い出されることがある。「思い出した」という意識のあるのはまだいい方で、それが無意識のことすらある。たとえばS□□Pの□にアルファベットを入れて英単語を完成するという課題がある。事前にWASHという単語を読んだり聞いたりしていると、SOUPよりもSOAPを思い浮かべる可能性が高くなる。そして、しばしば本人はその影響を意識することすらできない。

 

 そのような脳の基本的メカニズムを考えると、方向感覚や定位の感覚もまた、こうした無意識による記憶に多くを依存しているのだろう。場所の特徴に興味をもったり、周囲の場所場所の位置関係に敏感になることが空間や場所の刺激に対する脳の中での結びつきを強める。それがある場所の風景を見たときに、「ここにいる!」という感覚につながるのかもしれない。武蔵溝ノ口での私の経験は、期せずして脳のメカニズムを自分に気づかせてくれた。

 

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