コラム10 ブラックアウト

霧や吹雪の中では、視界全面が白くなる。これがホワイトアウトと呼ばれる現象である。ホワイトアウトになると、針路の維持もままならなくなり、ナヴィゲーションが極端に難しくなる。ナヴィゲーターにとって究極のナヴィゲーション課題である。

 

道のない山岳での夜間のナヴィゲーションも、ホワイトアウトに似た状況である。日常の登山では滅多にない状況だが、アドベンチャーレースの中には、ナイトのステージが用意されているものがある。とりわけ安曇野アドベンチャーレースは、チャレンジングなナイトステージが提供されることで有名である。

 

もちろん、ヘッドランプやハンディーライトは持っている。しかし、それによって得られる視界は高々10-20m程度だ。しかも、あたりは一面の笹薮で、まっすぐ進むことすらままならない。こんな状況だからこそ、普段のナヴィゲーションで自分が何気なく使っている情報に、改めて気づくことができる。

 

たとえば、くだりの区間は地図で見るとほとんど一直線に降りてくる尾根だ。だが、尾根だと分かるのは地図で広い範囲を見ることができればこそである。暗闇の中ではたとえヘッドランプで照らしたとしても、自分が本当に周囲でいちばん高いところにいるのか、そのラインを維持しているのかを確認することさえ容易ではない。その不安を意識することで初めて、昼間のナヴィゲーションでは無意識のうちに、自分が周囲でいちばん高いところにいること、そのラインに沿って移動していることを確認していることに気づくことができる。

 

ナイトナヴィゲーションは、道具の有用性にも気づかせてくれる。尾根のラインを見てとることができない代わりにシルバコンパスを使う。昨年のレースでは、地図に磁北線をひかず、プレートコンパスも持たずに尾根を下ったため、しばしば尾根ラインをはずし、復帰に時間をとられた。オリエンテーリング歴30年にして、初めてシルバコンパスの有用性を実感した。

 

地形によって現在地を確定することができないので、その代わりに高度計で現在地を特定する。昨年は誤差のあるまま「なんとなく」使っていたので、地図にないピークに惑わされて、針路決定にも支障をきたした。高度計を正確に調整していれば、ピークが地図に描かれていなくても、「このふくらみの中にピークが隠されている」と分かっただろう。今年は、気圧の変化による誤差をこまめに調整したおかげで、尾根が方向変化する点もピンポイントでつかむことができた。

 

安曇野アドベンチャーレースが提供する究極のナヴィゲーション体験は、さまざまな気づきを与えてくれた。

 

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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