M-nopコラム

ナヴィゲーションの伝道師、村越真による日々ナヴィゲーションコラム。

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最新コラム

2020年

1月

13日

ツールの特性を知る

 九州でのトレイルランニングフォーラムに参加した。午前中は福岡に本社のあるYAMAPのオープニング・トーク、その後気候変動に関するシンポジウムが開催された。YAMAPはIT×自然の中では50人を越える従業員を抱える尖った会社である。登山に欠かせない位置情報を提供するだけでなく、登山者のコミュニティーを形成することを目指す、その成果として得られた膨大なルートを安全登山に活用する試みにも注目していた。起業家らしい概念的トーク、技術的なトークも面白かった。

 

 午後、地図読み講座をやる予定になっていた私はちょっと心配になった。このトークを聞いたら誰も僕の講座を聴きに来ないんじゃないだろうか?結果は杞憂で、2コマのセッションで合計100人くらいの人が地図読みの話を聞きに来てくれたのだから、参加者も、「スマホ・タブレットだけではだめだ」と分かっているのだろう。しかし、大事なことは「なぜダメか?」

 

 講習の前半で、登山で何のために地図を読むのかという話しをした。事前のプランニング、移動中の先読み→ルート維持→現在地の把握、これら1ステップづつをサイクル的に実行することで間違いなく効率よく現地に着くことができる。決っしてけちを付けようとしているのではない、と前置きをして、「YAMAPでできるのはどれでしょう?」と問いかけた。現在地の把握、これは確実にやってくれる。ではルート維持は?カーナヴィと違ってその機能はほぼない。もちろん、ルートを外せば現在地が予定ルートから外れていくから結果的にルート維持はできる。だが効率的とは言えない。先読みはもちろんしてくれない。事前のプランニングもできない。また、緊急事態や予定変更を余儀なくされて、戻るべきか進むべきか、あるいはエスケープすべきかを判断する時、事前に地図を広範囲で把握しておけば、予定外のルートも速やかに計画できる。戻る/進むの判断も適切にできるだろう。

 

 ツールの特性、そして自分の身を守るためにすべきことを明確にして、はじめてツールが最大限かつ適切に利用可能になる。同じことは、防水透湿素材についても言える。ゴアテックスを代表とする防水透湿素材のパフォーマンスには盲目的な信頼がある。果たしてこれはツールの特性を把握してのことだろうか?これらの透湿素材の透湿量は最初見たときには「マジか?」と思うくらいの桁外れである。13リットル。完璧でしょ、と思いたいが、単位はなんだろう?/日/平方メートルである。つまり1日あたり、生地1平方メートルあたり13リットルである。それでも凄いが、まず一日の行動時間をたとえば6時間、アウターの上の面積をざっくり1/2平方メートル、割り算をしやすくするため透湿量を12リットルとしよう。この生地が最大のパフォーマンスを発揮した場合、12÷2÷4で1.5リットルだ。つまり着用中にこのアウターは最大1.5リットルの水分を出すことができる。一般に登山では体重×時間×5(ml)の水分補給が望ましいとされている。この全てが汗という訳ではないが、仮に1/2とすると、体重60kgの人が6時間に発汗する量は900mlとなる。十分1.5リットルに収まっているように見える。

 

 しかし、そもそも13リットルという透湿性能は日本工業規格のテストによって得られる。それによると、生地の一方で相対湿度条件下90%で、生地の反対側で吸湿剤で吸湿する条件でどれだけ水分が通過するかというテストで計測されている。計測法はいろいろだ、いずれも、生地の表裏でかなりの湿度差がある条件で計測されている。一方で、実際にレインウェアが使われる環境はどうだろう。身体の側が仮に100%であったとしても、外側の湿度もかなり高い。梅雨時であればほと100%に近い条件もあるだろう。このような条件では透湿のパフォーマンスはかなり落ちることが予想される。控えめに半分と見積もっても、1.5リットルは750mlとなり、発汗量を全て排出することはできない。150ml、つまりコップ1杯分の水を衣服内にぶちまけたのと同じだけの水分が残る計算になる。

 

 ツールの性能は機械的なものだから、利用者の気持ちを忖度し性能を高めるということはありえない。ツールの性能を知れば、やはり過信をしてはいけないということが理解できるだろう。これもまた、主体的、自律的に自分の身を守ることの一つなのだ。

コラム一覧

no.143 ツールの特性を知る New!!

no.142 地図が読めれば生き残れる!? 

no.141 時代

no.140 Control your destiny, or someone else will

no.139 自然の中のリスクに備える

no.138 コースプランニング

no.137 若者の自然回帰

no.136 台風のさなか、走りに行こう!

no.135 台風のさなか、山にでかけよう!

no.134 Control your destiny, or someone else will

no.133 南極観測に地図は必要か?

no.132 世界最難関ロンドンのタクシー運転手試験

no.131 山のお約束

no.130 ゴールデンウィークは東京へ

no.129 那須岳雪崩遭難に思う

no.128 山岳救助有料化に思う

no.127 脳の仕組みと方向感覚

no.126 データベースの威力

no.125 橘樹今昔物語 

no.124 コンパスは飾りじゃない!

no.123 太陽が西から上がって東に向かう?

no.122 人事を尽くして天命を待つ

no.121 今、山のグレーディングが熱い! 

no.120 見えていない世界

no.119 後悔 

no.118 組み体操

no.117 通俗心理学の罠

no.116 古地図で蘇る東京

no.115 階層的規律は登山隊の成功につながるか?

no.114 精緻な数値情報は正しい危険評価に貢献するか?

no.113 山のグレーディング

no.112 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.111 GPSスマホの落とし穴

no.110 地図の抽象性

no.109 道迷いシンポジウム 

no.108 ナヴィゲーションのファンタジスタ

no.107 登山届け義務化に反対する

no.106 ノーベル賞

no.105 安全と教育意義のジレンマ

no.104 リスクは誰にでも顕在化しうる

no.103 子どもの学び

no.102 江戸の近郷 

no.101 山岳雑誌に見るリスクマネジメント・道迷い遭難

no.100 今昔物語

no.99 城南地形萌えラン

no.98 ナチュラル・ナビゲーション

no.97 地図を使わない・・・:学校の自然体験

no.96 ドクタージェネラル

no.95 ナヴィゲーションを支える身体知

no.94 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.93 拡張現実

no.92 空間認知心理学の進歩

no.91 研修の楽しみ

no.90 ナヴィゲーターの難しさ

no.89 地図は邪魔者

no.88 暗黙知としての地図読み

no.87 クイックOの可能性

no.86 冬山でのナヴィゲーション(2012/3/20)

no.85 はやぶさ

no.84 ナヴィゲーションスポーツで脳も体も健康に!

no.83 ナヴィゲーション・スポーツというコンセプト

no.82 反事実的思考 

no.81 山岳遭難の現状2011

no.80 登山に地図を生かすには?

no.79 できる人は地図思考

no.78 時には悪天候も悪くない

no.77 赤色立体図はすごい

no.76 ナヴィゲーションへの組織的な動き 

no.75 生きて帰る 

no.74 現在地が分からない

no.73 折り紙の地形

no.72 緊急特集:道迷い遭難

no.71 読めないふり

no.70 女は地図が読めないか?

no.69 GPS vs 地図読み

no.68 ブラッシュアップ

no.67 学習登山 

no.66 大人はなぜつまづくのか? 

no.65 読図を教える

no.64 ゆらぐ

no.63 高まる読図への関心

no.62 富士山アウトドアマップⅡ

no.61 地形萌え

no.60 読図力とその自己評価

no.59 中高年遭難という言説

no.58 2008全国遭難対策協議会に参加して

no.57 死者は語る

no.56 あらためて知るコンパスの効用

no.55 地図屋の気概(3)

no.54 地図屋の気概(2)

no.53 コンパスをテストする

no.52 広がる読図講習会

no.51 今年もセンター入試:1/21

no.50 07年を振り返って

no.49 ナヴィゲーション・マスター

no.48 女性セブン

no.47 地図屋の気概

no.46 読図講習会で学んだこと 

no.45 ショップと共催の読図講習会

no.44 地図に訊け!

no.43 ハザードマップ実験をして

no.42 「考える力つく」地図帳

no.41 ロゲイン

no.40 尾根・谷を区別する 

no.39 地図から分かること 

no.38 センター入試再び

no.37 専門調査委員会に出席して

no.36 読図・ナヴィゲーションへの関心

no.35 冬眠

no.34 乗り過ごす

no.33 教育にオリエンテーリングを

no.32 地図物語

no.31 有度山ロゲイン

no.30 ブラックアウト再び

no.29 アウトドアショップの意気込み

no.28 危うく道迷い

no.27 海外遭難事情

no.26 地図で迷う

no.25 傾斜の感覚

no.24 実践の発想

no.23 『キルプの軍団』 

no.22 シルバの新しいコンパス 

no.21 香港でのハイキング  

no.20 地図を見る様々な視点 

no.19 ナヴィゲーションで「失敗学」しよう

no.18 被験者になる

no.17 定位を失う

no.16 地図という比喩

no.15 センター試験

no.14 GPSは役立つか

no.13 コンパスの使用説明書

no.12 読図講習会を行って

no.11 読み書きそろばん、ナヴィゲーション

no.10 ブラックアウト

no.9  方向音痴の人と街を歩く

no.8  ナヴィゲーションの生態学

no.7  究極のアウトドアマップ

no.6  地図への関心

no.5  あきれたガイドマップ

no.4  地図のアイデア商品

no.3  人はアウトドアで正しく地図を使えるか?

no.2  ナヴィゲーション用具の利用は難しい

no.1  狂ったコンパス 

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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2015年3月のシンポジウムのプログラムと村越の発表資料を掲載しております。

初心者に最適なコンパス、マイクロレーサー