M-nopコラム

ナヴィゲーションの伝道師、村越真による日々ナヴィゲーションコラム。

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最新コラム

2020年

5月

30日

コラム144:リスクに対応する言葉

 2003年に初めて体験活動のリスクについての本を上梓した時、危険について語る言葉が偏っていることが気になった。危険について語る言葉にはスローガン、視点・方略、ノウハウがある。スローガンはどんな場面にも当てはまる抽象的な言葉で、実践を生み出す力は(多くの人に対しては)ない。「遭難に気を付けよう」みたいな言葉だ。

 

 一方ノウハウはある場面では確実に役立つが、それ以上の力を持たない。自然の中では危険が多様なものであることを考えると、いくらノウハウを積み重ねても、必ず新しい事態に出会うので、対応ができなくなってしまう。どちらの言葉も不十分だ。おそらく優れた実践家はそのどちらでもない、こんな方向性で考えたらその場に適した方法をその都度効率的に生み出すことができるだろうというような考え方を持っているのだろう。認知心理学の世界では、これを「実践知」と呼ぶ。2003年に書いた本で、私はこれを「視点・方略」と名付けていた。ノウハウのように具体的でもなく、スローガンのように分かりやすくないので、それらは言葉にしにくい。言葉にして伝えられる理論知と対比して実践知と呼ばれる所以である。

 

 視点・方略という観点から見た時、コロナウイルス対策の3密は的確なリスク対応の言葉だと感じた。実際にはそれに2mとか5分とか、二方向の換気とか、より具体的な条件が付くのだが、3密という言葉から、個々の具体的場面でどう行動すべきかを一人ひとりが判断することができる。逆に「これはやばいだろう」と判断することもできる。このような言葉を使いこなすことが、様々に変化する自然の中でもうまくやっていくことにつながる。それはアウトドアの安全にも寄与する。

 

 もっと具体的に言ってくれ、という批判も出た。何よりリスクは、現場現場で異なる。それに対して良識的に判断できる国民が増えることはリスクを下げつつ、行政への負荷も減らし、結果として社会全体がよりスムースに活動を維持することにつながる。だから、こうした言葉を使いこなす国民が増えることは国としてのレジリエンスを高めるはずだ。そう思うと、「具体的に言ってくれ」という声が上がることが残念に思われる。

 

 実際、日本はスウェーデンと同様、緩~い行動規制を引いた。スウェーデンとは違うタイプかもしれないが、国民の行動への信頼があったのだろうし、それに国民も概ね応えたと思う。法的限界があったからにせよ、それを前提に日本の(クラスターを主軸とした)コロナ対策は立てられている(これはNHKスペシャルで西浦さんや尾身さんも言及していた)。

 

 日本山岳スポーツクライミング協会が他の山岳3団体と出した自粛要請も、この観点からすると残念な内容だった。あれでは、リスクに対する思考が深まらない。何かしなければという気持ちは理解できるにしても、せっかく手に入れたリスクについて考えつつ実践できるツールを生かせるようなメッセージにできなかったものだろうか?

コラム一覧

no.144 リスクに対応する言葉 New!!

no.143 ツールの特性を知る

no.142 地図が読めれば生き残れる!? 

no.141 時代

no.140 Control your destiny, or someone else will

no.139 自然の中のリスクに備える

no.138 コースプランニング

no.137 若者の自然回帰

no.136 台風のさなか、走りに行こう!

no.135 台風のさなか、山にでかけよう!

no.134 Control your destiny, or someone else will

no.133 南極観測に地図は必要か?

no.132 世界最難関ロンドンのタクシー運転手試験

no.131 山のお約束

no.130 ゴールデンウィークは東京へ

no.129 那須岳雪崩遭難に思う

no.128 山岳救助有料化に思う

no.127 脳の仕組みと方向感覚

no.126 データベースの威力

no.125 橘樹今昔物語 

no.124 コンパスは飾りじゃない!

no.123 太陽が西から上がって東に向かう?

no.122 人事を尽くして天命を待つ

no.121 今、山のグレーディングが熱い! 

no.120 見えていない世界

no.119 後悔 

no.118 組み体操

no.117 通俗心理学の罠

no.116 古地図で蘇る東京

no.115 階層的規律は登山隊の成功につながるか?

no.114 精緻な数値情報は正しい危険評価に貢献するか?

no.113 山のグレーディング

no.112 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.111 GPSスマホの落とし穴

no.110 地図の抽象性

no.109 道迷いシンポジウム 

no.108 ナヴィゲーションのファンタジスタ

no.107 登山届け義務化に反対する

no.106 ノーベル賞

no.105 安全と教育意義のジレンマ

no.104 リスクは誰にでも顕在化しうる

no.103 子どもの学び

no.102 江戸の近郷 

no.101 山岳雑誌に見るリスクマネジメント・道迷い遭難

no.100 今昔物語

no.99 城南地形萌えラン

no.98 ナチュラル・ナビゲーション

no.97 地図を使わない・・・:学校の自然体験

no.96 ドクタージェネラル

no.95 ナヴィゲーションを支える身体知

no.94 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.93 拡張現実

no.92 空間認知心理学の進歩

no.91 研修の楽しみ

no.90 ナヴィゲーターの難しさ

no.89 地図は邪魔者

no.88 暗黙知としての地図読み

no.87 クイックOの可能性

no.86 冬山でのナヴィゲーション(2012/3/20)

no.85 はやぶさ

no.84 ナヴィゲーションスポーツで脳も体も健康に!

no.83 ナヴィゲーション・スポーツというコンセプト

no.82 反事実的思考 

no.81 山岳遭難の現状2011

no.80 登山に地図を生かすには?

no.79 できる人は地図思考

no.78 時には悪天候も悪くない

no.77 赤色立体図はすごい

no.76 ナヴィゲーションへの組織的な動き 

no.75 生きて帰る 

no.74 現在地が分からない

no.73 折り紙の地形

no.72 緊急特集:道迷い遭難

no.71 読めないふり

no.70 女は地図が読めないか?

no.69 GPS vs 地図読み

no.68 ブラッシュアップ

no.67 学習登山 

no.66 大人はなぜつまづくのか? 

no.65 読図を教える

no.64 ゆらぐ

no.63 高まる読図への関心

no.62 富士山アウトドアマップⅡ

no.61 地形萌え

no.60 読図力とその自己評価

no.59 中高年遭難という言説

no.58 2008全国遭難対策協議会に参加して

no.57 死者は語る

no.56 あらためて知るコンパスの効用

no.55 地図屋の気概(3)

no.54 地図屋の気概(2)

no.53 コンパスをテストする

no.52 広がる読図講習会

no.51 今年もセンター入試:1/21

no.50 07年を振り返って

no.49 ナヴィゲーション・マスター

no.48 女性セブン

no.47 地図屋の気概

no.46 読図講習会で学んだこと 

no.45 ショップと共催の読図講習会

no.44 地図に訊け!

no.43 ハザードマップ実験をして

no.42 「考える力つく」地図帳

no.41 ロゲイン

no.40 尾根・谷を区別する 

no.39 地図から分かること 

no.38 センター入試再び

no.37 専門調査委員会に出席して

no.36 読図・ナヴィゲーションへの関心

no.35 冬眠

no.34 乗り過ごす

no.33 教育にオリエンテーリングを

no.32 地図物語

no.31 有度山ロゲイン

no.30 ブラックアウト再び

no.29 アウトドアショップの意気込み

no.28 危うく道迷い

no.27 海外遭難事情

no.26 地図で迷う

no.25 傾斜の感覚

no.24 実践の発想

no.23 『キルプの軍団』 

no.22 シルバの新しいコンパス 

no.21 香港でのハイキング  

no.20 地図を見る様々な視点 

no.19 ナヴィゲーションで「失敗学」しよう

no.18 被験者になる

no.17 定位を失う

no.16 地図という比喩

no.15 センター試験

no.14 GPSは役立つか

no.13 コンパスの使用説明書

no.12 読図講習会を行って

no.11 読み書きそろばん、ナヴィゲーション

no.10 ブラックアウト

no.9  方向音痴の人と街を歩く

no.8  ナヴィゲーションの生態学

no.7  究極のアウトドアマップ

no.6  地図への関心

no.5  あきれたガイドマップ

no.4  地図のアイデア商品

no.3  人はアウトドアで正しく地図を使えるか?

no.2  ナヴィゲーション用具の利用は難しい

no.1  狂ったコンパス 

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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2015年3月のシンポジウムのプログラムと村越の発表資料を掲載しております。

初心者に最適なコンパス、マイクロレーサー