M-nopコラム

ナヴィゲーションの伝道師、村越真による日々ナヴィゲーションコラム。

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2018年

9月

27日

コラム136:台風のさなか、走りに行こう!

 9月4日、うっかり、前日トレーニングを休んでしまったので、台風が直撃したにもかかわらず30分は走りたいという気持ちに駆られた。大学生のころであれば、「台風が来ると、ワイルドな気分になる」といって、所構わず走っていた。さすがにこの歳でリスク万ジメントを仕事にしていると、そんなのんきなことも言っていられない。どこで走るのが最もリスクが低いだろうか?

 

 そもそも台風のリスクはどこにあるだろう。前回のコラムでも触れたが、その発想は都会でも有効だ。強風による飛来物や落下物、そして増水、土砂崩れ。増水と土砂崩れは地形との対応が明確だから、容易に避けることができる。だが、強風による飛来物や落下物はどこでもありえる。そこで思いついたのが、大学のサッカー場。沢の中に作られたサッカー場は尾根に囲まれ風も弱いし、大学構内なので、危険な飛来物の確率はかなり低いと思われる。また、サッカー場には上部構造物はない(ナイター設備を除く)ので、落下物の心配も限りなく低い。サッカー場まで車で出かけて、走ることにした。まだ気温は高いので、雨が降っても低体温のリスクはない。

 

 それだけ気をつけていたのだが、事故に遭遇してしまった。ただし、他者の事故である。むしろ事故当事者にとっては、こんなに天気の悪い日に近くに走っている私がいたことは、幸運なことだったのかもしれない。サッカー場を走り始めて11分たったとき、体育館につながる坂道で「バン」という音がした。サッカー場から見ると原付が転倒している。最初人が見えなかったので、駐輪していた原付が倒れたのかと思ったが、近づいてみると人が倒れているのが見えた。動いてはいる。慌てて離れたところから声を掛けると、返事もする(これはファーストエイドとしてはよくない行為だということは、2週間後の山岳遭難の研修会で知った)。近づいて確認すると、痛々しい擦過傷はあるものの、意識は清明で、頭も打っていないという。

 

 周囲を見ると、長さ3mほどの枝が道路に横たわっている。彼女はこれに乗り上げたか、避けようとして転倒したようだ。普段なら、こんな障害物は道の上にはない。強風で落ちたのだろう。安全上管理された大学キャンパスといえども、自然の猛威の前には、リスクの管理程度は下がる。もし彼女がそのことに敏感で、もう少し慎重に運転していれば、事故は防げたかもしれない。擦過傷で済んだのは幸運だった。

 

 悪天候で自然のリスクが高まる時に、いつも幸運に恵まれるとは限らない。8月末に、トランスジャパンアルプスレースの余韻を感じに大浜海岸を走った日、台風が近づきづつあることが、波の荒さから感じられた。けれども、よもやその晩に、静岡大学の学生3人が波にさらわれ、命を落とすことになろうとは予想することもできなかった。

 

 翌日ニュースでその事を知った。浜辺に止められた自転車を、早朝散歩の人が見つけて警察に届けたのだ。残されたスマホには、花火をして遊ぶ3人の姿が映されていた。サンダルも残されていたという。彼らはひょっとすると、意図的に波打ち際に近づいたのかもしれない。自然によるリスクの変化に無自覚だったとしか思えない。その代償はあまりにも大きい。大学としても悔いが残る。14年前にも同じような事故で2名の学生を静岡の海岸で失っているのだ。

 

 4年で入れ替わる学生が教訓を受け継ぐのは難しい。大学も安全教育は新入生教育の一環に取り入れているが、「自分のこと化」して捉えてもらうことは難しい。大学生だから、校則や規制で海辺への立ち寄りも禁止することはできない。たとえできたとしても、一つ一つの具体的なリスクを禁止で対応することは、本質的な解決にならない。未知の場面でも行動の指針となるような、原理的な理解が求められる。それを生み出すのは、リスク管理を研究する大学人の役目であろう。

コラム一覧

no.136 台風のさなか、走りに行こう! New!!

no.135 台風のさなか、山にでかけよう!

no.134 Control your destiny, or someone else will

no.133 南極観測に地図は必要か?

no.132 世界最難関ロンドンのタクシー運転手試験

no.131 山のお約束

no.130 ゴールデンウィークは東京へ

no.129 那須岳雪崩遭難に思う

no.128 山岳救助有料化に思う

no.127 脳の仕組みと方向感覚

no.126 データベースの威力

no.125 橘樹今昔物語 

no.124 コンパスは飾りじゃない!

no.123 太陽が西から上がって東に向かう?

no.122 人事を尽くして天命を待つ

no.121 今、山のグレーディングが熱い! 

no.120 見えていない世界

no.119 後悔 

no.118 組み体操

no.117 通俗心理学の罠

no.116 古地図で蘇る東京

no.115 階層的規律は登山隊の成功につながるか?

no.114 精緻な数値情報は正しい危険評価に貢献するか?

no.113 山のグレーディング

no.112 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.111 GPSスマホの落とし穴

no.110 地図の抽象性

no.109 道迷いシンポジウム 

no.108 ナヴィゲーションのファンタジスタ

no.107 登山届け義務化に反対する

no.106 ノーベル賞

no.105 安全と教育意義のジレンマ

no.104 リスクは誰にでも顕在化しうる

no.103 子どもの学び

no.102 江戸の近郷 

no.101 山岳雑誌に見るリスクマネジメント・道迷い遭難

no.100 今昔物語

no.99 城南地形萌えラン

no.98 ナチュラル・ナビゲーション

no.97 地図を使わない・・・:学校の自然体験

no.96 ドクタージェネラル

no.95 ナヴィゲーションを支える身体知

no.94 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.93 拡張現実

no.92 空間認知心理学の進歩

no.91 研修の楽しみ

no.90 ナヴィゲーターの難しさ

no.89 地図は邪魔者

no.88 暗黙知としての地図読み

no.87 クイックOの可能性

no.86 冬山でのナヴィゲーション(2012/3/20)

no.85 はやぶさ

no.84 ナヴィゲーションスポーツで脳も体も健康に!

no.83 ナヴィゲーション・スポーツというコンセプト

no.82 反事実的思考 

no.81 山岳遭難の現状2011

no.80 登山に地図を生かすには?

no.79 できる人は地図思考

no.78 時には悪天候も悪くない

no.77 赤色立体図はすごい

no.76 ナヴィゲーションへの組織的な動き 

no.75 生きて帰る 

no.74 現在地が分からない

no.73 折り紙の地形

no.72 緊急特集:道迷い遭難

no.71 読めないふり

no.70 女は地図が読めないか?

no.69 GPS vs 地図読み

no.68 ブラッシュアップ

no.67 学習登山 

no.66 大人はなぜつまづくのか? 

no.65 読図を教える

no.64 ゆらぐ

no.63 高まる読図への関心

no.62 富士山アウトドアマップⅡ

no.61 地形萌え

no.60 読図力とその自己評価

no.59 中高年遭難という言説

no.58 2008全国遭難対策協議会に参加して

no.57 死者は語る

no.56 あらためて知るコンパスの効用

no.55 地図屋の気概(3)

no.54 地図屋の気概(2)

no.53 コンパスをテストする

no.52 広がる読図講習会

no.51 今年もセンター入試:1/21

no.50 07年を振り返って

no.49 ナヴィゲーション・マスター

no.48 女性セブン

no.47 地図屋の気概

no.46 読図講習会で学んだこと 

no.45 ショップと共催の読図講習会

no.44 地図に訊け!

no.43 ハザードマップ実験をして

no.42 「考える力つく」地図帳

no.41 ロゲイン

no.40 尾根・谷を区別する 

no.39 地図から分かること 

no.38 センター入試再び

no.37 専門調査委員会に出席して

no.36 読図・ナヴィゲーションへの関心

no.35 冬眠

no.34 乗り過ごす

no.33 教育にオリエンテーリングを

no.32 地図物語

no.31 有度山ロゲイン

no.30 ブラックアウト再び

no.29 アウトドアショップの意気込み

no.28 危うく道迷い

no.27 海外遭難事情

no.26 地図で迷う

no.25 傾斜の感覚

no.24 実践の発想

no.23 『キルプの軍団』 

no.22 シルバの新しいコンパス 

no.21 香港でのハイキング  

no.20 地図を見る様々な視点 

no.19 ナヴィゲーションで「失敗学」しよう

no.18 被験者になる

no.17 定位を失う

no.16 地図という比喩

no.15 センター試験

no.14 GPSは役立つか

no.13 コンパスの使用説明書

no.12 読図講習会を行って

no.11 読み書きそろばん、ナヴィゲーション

no.10 ブラックアウト

no.9  方向音痴の人と街を歩く

no.8  ナヴィゲーションの生態学

no.7  究極のアウトドアマップ

no.6  地図への関心

no.5  あきれたガイドマップ

no.4  地図のアイデア商品

no.3  人はアウトドアで正しく地図を使えるか?

no.2  ナヴィゲーション用具の利用は難しい

no.1  狂ったコンパス 

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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2015年3月のシンポジウムのプログラムと村越の発表資料を掲載しております。

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