M-nopコラム

ナヴィゲーションの伝道師、村越真による日々ナヴィゲーションコラム。

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最新コラム

2019年

7月

07日

コラム141:時代

毎年、初夏になると警察庁から、昨年の山岳遭難の概況が発表される。夏山の登山シーズンに向けて、警鐘を鳴らす意味もあるのだろう。その報告も合わせて、全山遭(全国山岳遭難対策協議会)が開催される。この協議会、数年前までは各県持ち回りで行われていた。各都道府県の救助活動お国自慢のような部分も正直あった。遭難対策とは言え、救助活動、つまり何かが起こった時のダメージコントロールが主として紹介されていた。

 

 各県持ち回りから東京での毎年開催になってから、内容が変わりつつある。ダメージコントロールから、未然防止も含めた対策へ。長野県あたりが総合的な山岳遭難対策を打ち出した頃と軌を一にしている。

 

 7月5日に開催された今年の協議会は、一段と先鋭化の度合いを増していた。圧巻だったのは富山県自然保護課の「安全登山対策の更なる充実に向けて」という報告書である。未熟な登山者が圧倒的に多いというリアリズムに基づき、ダメージコントロールと未然防止という二つの側面から、安全登山の対策をまとめたものだ。さらに、未然防止とダメージコントロールをソフト(対人管理)/ハード(対物管理)でマトリクスにし、総合的な安全登山の名に恥じないものとしている。自助共助公助といった災害対応では当たり前のようになっているが、遭難救助ではパターナリズムのもとで忘れられがちな視点も盛り込まれている。

 

 IT関係の技術による遭難防止、遭難救助の発表が多かったのも今回の特徴だった。日本山岳ガイド協会が運営している登山届提出サイト「コンパス」と連動したドローンによる遭難者発見の実証実験の話も興味深かった。「コンパス」というサイトがあることは知っていたし、そこには下山届を出したり、それをチェックして、下山が確認できない場合には家族等に連絡する機能もあることは知っていた。さらに、スマホを持っていれば登山者の通過を自動的に把握できる「スマート道標」によって、通過位置の特定まで可能になるという。この発表では、それにドローンを組み合わせて、行方不明者の捜索を効率的に行えるという。「コンパス」をプラットフォームにして、遭難対策が効率的に展開される可能性が提示された。

 

 こうした技術が進む中、登山者が「持っていさえすれば安心」「持っていれば助けてもらえる」という人任せになることには懸念がある。ドローンによる実証実験を行った鳥取県も、警察官は全県で1000人ほど。実際に、実証実験ほどの捜索隊を編制できるのかという危惧もあるという。こうした意味でも、山のリスクに対しては自助が基本であることは変わらないと感じた。自らリスクあるが故に魅力的である場所に入っていること、まずは自分での対応が求められていること、それと同時に、リスクに対応すること自体が山の魅力だということをより多くの登山者に理解してもらうことも重要な課題だ。

 

 こういう全国協議会というのは、「遭難は漸増傾向、高止まりが続いている。我々が頑張ろう!」という勇ましいスローガンに終わりがちだが、だが、現実には限られたリソースでやっていかなければならない。救助隊も組織である以上、自分たち自身の安全にも留意してやらなければならない。コンプライアンスも重要だ。そうしたジレンマの中で山岳救助もやっていかなければならない。遭難救助のリアリズムが強く意識しているという点でも、画期的な協議会だった。

 

(写真は富山県自然保護課の発表)

コラム一覧

no.141 時代 New!!

no.140 Control your destiny, or someone else will

no.139 自然の中のリスクに備える

no.138 コースプランニング

no.137 若者の自然回帰

no.136 台風のさなか、走りに行こう!

no.135 台風のさなか、山にでかけよう!

no.134 Control your destiny, or someone else will

no.133 南極観測に地図は必要か?

no.132 世界最難関ロンドンのタクシー運転手試験

no.131 山のお約束

no.130 ゴールデンウィークは東京へ

no.129 那須岳雪崩遭難に思う

no.128 山岳救助有料化に思う

no.127 脳の仕組みと方向感覚

no.126 データベースの威力

no.125 橘樹今昔物語 

no.124 コンパスは飾りじゃない!

no.123 太陽が西から上がって東に向かう?

no.122 人事を尽くして天命を待つ

no.121 今、山のグレーディングが熱い! 

no.120 見えていない世界

no.119 後悔 

no.118 組み体操

no.117 通俗心理学の罠

no.116 古地図で蘇る東京

no.115 階層的規律は登山隊の成功につながるか?

no.114 精緻な数値情報は正しい危険評価に貢献するか?

no.113 山のグレーディング

no.112 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.111 GPSスマホの落とし穴

no.110 地図の抽象性

no.109 道迷いシンポジウム 

no.108 ナヴィゲーションのファンタジスタ

no.107 登山届け義務化に反対する

no.106 ノーベル賞

no.105 安全と教育意義のジレンマ

no.104 リスクは誰にでも顕在化しうる

no.103 子どもの学び

no.102 江戸の近郷 

no.101 山岳雑誌に見るリスクマネジメント・道迷い遭難

no.100 今昔物語

no.99 城南地形萌えラン

no.98 ナチュラル・ナビゲーション

no.97 地図を使わない・・・:学校の自然体験

no.96 ドクタージェネラル

no.95 ナヴィゲーションを支える身体知

no.94 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.93 拡張現実

no.92 空間認知心理学の進歩

no.91 研修の楽しみ

no.90 ナヴィゲーターの難しさ

no.89 地図は邪魔者

no.88 暗黙知としての地図読み

no.87 クイックOの可能性

no.86 冬山でのナヴィゲーション(2012/3/20)

no.85 はやぶさ

no.84 ナヴィゲーションスポーツで脳も体も健康に!

no.83 ナヴィゲーション・スポーツというコンセプト

no.82 反事実的思考 

no.81 山岳遭難の現状2011

no.80 登山に地図を生かすには?

no.79 できる人は地図思考

no.78 時には悪天候も悪くない

no.77 赤色立体図はすごい

no.76 ナヴィゲーションへの組織的な動き 

no.75 生きて帰る 

no.74 現在地が分からない

no.73 折り紙の地形

no.72 緊急特集:道迷い遭難

no.71 読めないふり

no.70 女は地図が読めないか?

no.69 GPS vs 地図読み

no.68 ブラッシュアップ

no.67 学習登山 

no.66 大人はなぜつまづくのか? 

no.65 読図を教える

no.64 ゆらぐ

no.63 高まる読図への関心

no.62 富士山アウトドアマップⅡ

no.61 地形萌え

no.60 読図力とその自己評価

no.59 中高年遭難という言説

no.58 2008全国遭難対策協議会に参加して

no.57 死者は語る

no.56 あらためて知るコンパスの効用

no.55 地図屋の気概(3)

no.54 地図屋の気概(2)

no.53 コンパスをテストする

no.52 広がる読図講習会

no.51 今年もセンター入試:1/21

no.50 07年を振り返って

no.49 ナヴィゲーション・マスター

no.48 女性セブン

no.47 地図屋の気概

no.46 読図講習会で学んだこと 

no.45 ショップと共催の読図講習会

no.44 地図に訊け!

no.43 ハザードマップ実験をして

no.42 「考える力つく」地図帳

no.41 ロゲイン

no.40 尾根・谷を区別する 

no.39 地図から分かること 

no.38 センター入試再び

no.37 専門調査委員会に出席して

no.36 読図・ナヴィゲーションへの関心

no.35 冬眠

no.34 乗り過ごす

no.33 教育にオリエンテーリングを

no.32 地図物語

no.31 有度山ロゲイン

no.30 ブラックアウト再び

no.29 アウトドアショップの意気込み

no.28 危うく道迷い

no.27 海外遭難事情

no.26 地図で迷う

no.25 傾斜の感覚

no.24 実践の発想

no.23 『キルプの軍団』 

no.22 シルバの新しいコンパス 

no.21 香港でのハイキング  

no.20 地図を見る様々な視点 

no.19 ナヴィゲーションで「失敗学」しよう

no.18 被験者になる

no.17 定位を失う

no.16 地図という比喩

no.15 センター試験

no.14 GPSは役立つか

no.13 コンパスの使用説明書

no.12 読図講習会を行って

no.11 読み書きそろばん、ナヴィゲーション

no.10 ブラックアウト

no.9  方向音痴の人と街を歩く

no.8  ナヴィゲーションの生態学

no.7  究極のアウトドアマップ

no.6  地図への関心

no.5  あきれたガイドマップ

no.4  地図のアイデア商品

no.3  人はアウトドアで正しく地図を使えるか?

no.2  ナヴィゲーション用具の利用は難しい

no.1  狂ったコンパス 

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 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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2015年3月のシンポジウムのプログラムと村越の発表資料を掲載しております。

初心者に最適なコンパス、マイクロレーサー