M-nopコラム

ナヴィゲーションの伝道師、村越真による日々ナヴィゲーションコラム。

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最新コラム

2017年

9月

25日

コラム132:世界最難関ロンドンのタクシー運転手試験

 去る7月29日にNHKのEテレ(教育テレビ)地球ドラマチックでロンドンのタクシー運転手の試験の密着取材の様子が放送された。ロンドンのタクシー運転手は合格するまでに難しい試験を課されることは有名だが、私たち空間認知の研究者にとっては一層なじみの深い職業である。2014年にノーベル医学・生理学賞を受賞したのがロンドンカレッジユニバーシティーの神経生理学者オキーフの研究 

は、脳による空間認識のメカニズムの解明であった。最初はネズミの脳にある海馬に、特定の場所にいるときに活発に活動する神経細胞があることを発見し、それを場所細胞と名付けた。その後の研究で、場所が分かる背後には、どの向きに向いているかを感知する細胞や空間の距離を把握する細胞があること、あるいは離れた場所にある障害物からの方向と距離に応じて活動する境界ベクトル細胞が 

あるといったことが解明された。空間認知の基本的なメカニズムを明らかにする画期的な発見だった。

 

 オキーフ一門で風変わりな研究をする女性研究者がいた。彼女の名前はマクガイア。マクガイアはロンドンのタクシー運転手を対象に研究をしたのだが、MRIを使ってロンドンのタクシー運転手の海馬は大きく、しかも経験年数によってその容量は大きくなることを発見したのだ。同じロンドンの運転手でもバスの運転手では経験年数による海馬の容量の変化は見られなかった。かつては生後は脳の 

神経細胞は減少するばかりだと思われていたが、1990年後半から神経細胞が新生するという知見が確立しつつあった。相関研究ではあるが、特定の脳の使い方とその影響を示したという点でもこの結果は興味深い。自分で経路をプランニングすることが、海馬を活性化させ、それが海馬の神経細胞の新生に影響しているのだろう。

 

 この研究成果を読んだ時は、いくらなんでもカーナヴィなども発展した現代都市で、脳の変化が起きるほどの仕事なのだろうかという素朴な疑問が私にはあった。だが、この番組を見て、その疑問は氷解した。タクシー運転手の試験は4段階にも及ぶ厳しいもので、受験者は平均8000時間もの学習を行うという。ロンドンの街にある10万ものランドマークを憶え、またそのランドマーク間の経路を正しく再生できなくてはならない。面接試験で見事にいくつもの通りを通過して目的地までのルートを回答する受験生や、反対に頭が真っ白になって失敗する受験生の様子が、番組では描き出されていた。作業は高度な空間記憶と、それを検索し結びつける力を要求する。これだけの課題を解決できる脳に、なんらかの変化が起こっていても不思議はない。

 

 最終試験に残るのが3割という難関であり、合格すれば尊敬を受けるブラックキャブの運転手になれる。数年前に失業し、自立した生活への再起をかけた中年男性、下町で育ちで、けんかで学校を何度も追われて今はブラックキャブの整備士をしている男性、あるいは20年以上前に幸福になりたくてコソボからやってきた男性受験者、いずれも人生の再起を賭けて莫大な時間を受験のために費やして 

いる。失業後4年、見事試験に合格し、はじめてロンドンで客を乗せた男性運転手の様子が最後に映された。伝統によれば開業後最初のお客からは運賃を貰わないのだそうだ。そう告げる彼の誇らしげな様子が印象的だった。

コラム一覧

no.132 世界最難関ロンドンのタクシー運転手試験 New!!

no.131 山のお約束

no.130 ゴールデンウィークは東京へ

no.129 那須岳雪崩遭難に思う

no.128 山岳救助有料化に思う

no.127 脳の仕組みと方向感覚

no.126 データベースの威力

no.125 橘樹今昔物語 

no.124 コンパスは飾りじゃない!

no.123 太陽が西から上がって東に向かう?

no.122 人事を尽くして天命を待つ

no.121 今、山のグレーディングが熱い! 

no.120 見えていない世界

no.119 後悔 

no.118 組み体操

no.117 通俗心理学の罠

no.116 古地図で蘇る東京

no.115 階層的規律は登山隊の成功につながるか?

no.114 精緻な数値情報は正しい危険評価に貢献するか?

no.113 山のグレーディング

no.112 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.111 GPSスマホの落とし穴

no.110 地図の抽象性

no.109 道迷いシンポジウム 

no.108 ナヴィゲーションのファンタジスタ

no.107 登山届け義務化に反対する

no.106 ノーベル賞

no.105 安全と教育意義のジレンマ

no.104 リスクは誰にでも顕在化しうる

no.103 子どもの学び

no.102 江戸の近郷 

no.101 山岳雑誌に見るリスクマネジメント・道迷い遭難

no.100 今昔物語

no.99 城南地形萌えラン

no.98 ナチュラル・ナビゲーション

no.97 地図を使わない・・・:学校の自然体験

no.96 ドクタージェネラル

no.95 ナヴィゲーションを支える身体知

no.94 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.93 拡張現実

no.92 空間認知心理学の進歩

no.91 研修の楽しみ

no.90 ナヴィゲーターの難しさ

no.89 地図は邪魔者

no.88 暗黙知としての地図読み

no.87 クイックOの可能性

no.86 冬山でのナヴィゲーション(2012/3/20)

no.85 はやぶさ

no.84 ナヴィゲーションスポーツで脳も体も健康に!

no.83 ナヴィゲーション・スポーツというコンセプト

no.82 反事実的思考 

no.81 山岳遭難の現状2011

no.80 登山に地図を生かすには?

no.79 できる人は地図思考

no.78 時には悪天候も悪くない

no.77 赤色立体図はすごい

no.76 ナヴィゲーションへの組織的な動き 

no.75 生きて帰る 

no.74 現在地が分からない

no.73 折り紙の地形

no.72 緊急特集:道迷い遭難

no.71 読めないふり

no.70 女は地図が読めないか?

no.69 GPS vs 地図読み

no.68 ブラッシュアップ

no.67 学習登山 

no.66 大人はなぜつまづくのか? 

no.65 読図を教える

no.64 ゆらぐ

no.63 高まる読図への関心

no.62 富士山アウトドアマップⅡ

no.61 地形萌え

no.60 読図力とその自己評価

no.59 中高年遭難という言説

no.58 2008全国遭難対策協議会に参加して

no.57 死者は語る

no.56 あらためて知るコンパスの効用

no.55 地図屋の気概(3)

no.54 地図屋の気概(2)

no.53 コンパスをテストする

no.52 広がる読図講習会

no.51 今年もセンター入試:1/21

no.50 07年を振り返って

no.49 ナヴィゲーション・マスター

no.48 女性セブン

no.47 地図屋の気概

no.46 読図講習会で学んだこと 

no.45 ショップと共催の読図講習会

no.44 地図に訊け!

no.43 ハザードマップ実験をして

no.42 「考える力つく」地図帳

no.41 ロゲイン

no.40 尾根・谷を区別する 

no.39 地図から分かること 

no.38 センター入試再び

no.37 専門調査委員会に出席して

no.36 読図・ナヴィゲーションへの関心

no.35 冬眠

no.34 乗り過ごす

no.33 教育にオリエンテーリングを

no.32 地図物語

no.31 有度山ロゲイン

no.30 ブラックアウト再び

no.29 アウトドアショップの意気込み

no.28 危うく道迷い

no.27 海外遭難事情

no.26 地図で迷う

no.25 傾斜の感覚

no.24 実践の発想

no.23 『キルプの軍団』 

no.22 シルバの新しいコンパス 

no.21 香港でのハイキング  

no.20 地図を見る様々な視点 

no.19 ナヴィゲーションで「失敗学」しよう

no.18 被験者になる

no.17 定位を失う

no.16 地図という比喩

no.15 センター試験

no.14 GPSは役立つか

no.13 コンパスの使用説明書

no.12 読図講習会を行って

no.11 読み書きそろばん、ナヴィゲーション

no.10 ブラックアウト

no.9  方向音痴の人と街を歩く

no.8  ナヴィゲーションの生態学

no.7  究極のアウトドアマップ

no.6  地図への関心

no.5  あきれたガイドマップ

no.4  地図のアイデア商品

no.3  人はアウトドアで正しく地図を使えるか?

no.2  ナヴィゲーション用具の利用は難しい

no.1  狂ったコンパス 

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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2015年3月のシンポジウムのプログラムと村越の発表資料を掲載しております。

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