M-nopコラム

ナヴィゲーションの伝道師、村越真による日々ナヴィゲーションコラム。

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最新コラム

2018年

3月

12日

コラム133:南極観測に地図は必要か?

 11月27日より、3月23日までの予定で、第59次南極地域観測隊に同行する機会を得た(注1)。南極観測隊といえば、過酷な自然環境の中での研究活動というのが思い浮かぶ。確かに越冬は零下40度にもなる環境と、ブリザード等の致命的な気象条件の中で孤立して約1年間過ごすという点で、現在でもその過酷さは変わらない。一方で、私が同行した夏隊は、12月20日から1月末まで、南極の夏に限られている。例外的な寒さに見舞われた日本に比べたら関東地方と比較しても暖かいくらいだった。それでも、ひとたび風が吹けば風速15m、20mはざらで、建築資材が飛んでくるような気象条件になる。ヘリが飛べずに現地で数日停滞という事態も珍しくなかった。風がない晴天なら、Tシャツでも過ごせるくらいだが、ひとたび風が吹くと、体感温度が下がり、体温維持にも気を遣う必要がでる。その環境の変動の激しさが南極の過酷さの一因でもある。

 

 訓練のときに、ハンドベアリングコンパスでの雪上での直進練習を行った。また夏の訓練ではここ10年ほどオリエンテーリングが行われている。過酷な自然環境の中にいくのだから、地図読み、ナヴィゲーションは必須なのだろうと思っていたが、現地に行ってみると意外とそうでもない。隊員にはコンパスが貸与されるが、そのコンパスを使った隊員は数えるほどだろう。しかも、使ったのは気象情報収集のときの風向を見るため、という隊員も少なくないはずだ。

 

 夏の南極では野外調査の際に利用できる移動手段はほぼヘリに限られる。砕氷艦しらせ、ないしは昭和基地からヘリで直接調査地に乗りつける。現地で歩く距離もせいぜい数百メートルだ。中には地質調査や国土地理院のように1km程度移動する観測チームもいるが、ほとんどは見える範囲でしか移動しない。おまけに現在ではほぼ全ての調査チームがGPSを持っており、地図読みができる必要性は全くないのだ。

 

 とは言え、甘く見ることはできない。同行した地理院の職員の方は短距離だからと地図もGPSも参照しなかったら一瞬道を見失いかけたという。南極には森はないので、見通しはよい。一方で露岩地域は氷食地形で地形が複雑である。地図読みも難しい。ブリザードはもちろんだが、視程が下がればロストポジションが発生しても不思議はない。

 

 こんな状況下で、隊員に如何にしてナヴィゲーションの重要さを気づいてもらい、また地図に親しんでもらうかというのは、意外とチャレンジなのかもしれない。地図の持つ、プランニング、コミュニケーション促進機能にも目を向ける必要がありそうだ。

 

注1:同行者とは、正式の隊員ではないが、自らの負担により隊員とほぼ同等の活動を許された参加者を指す。今回の同行に関して、本法人より研究助成を得ました。本法人を支えて下さる皆さんにお礼申し上げます。

コラム一覧

no.133 南極観測に地図は必要か? New!!

no.132 世界最難関ロンドンのタクシー運転手試験

no.131 山のお約束

no.130 ゴールデンウィークは東京へ

no.129 那須岳雪崩遭難に思う

no.128 山岳救助有料化に思う

no.127 脳の仕組みと方向感覚

no.126 データベースの威力

no.125 橘樹今昔物語 

no.124 コンパスは飾りじゃない!

no.123 太陽が西から上がって東に向かう?

no.122 人事を尽くして天命を待つ

no.121 今、山のグレーディングが熱い! 

no.120 見えていない世界

no.119 後悔 

no.118 組み体操

no.117 通俗心理学の罠

no.116 古地図で蘇る東京

no.115 階層的規律は登山隊の成功につながるか?

no.114 精緻な数値情報は正しい危険評価に貢献するか?

no.113 山のグレーディング

no.112 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.111 GPSスマホの落とし穴

no.110 地図の抽象性

no.109 道迷いシンポジウム 

no.108 ナヴィゲーションのファンタジスタ

no.107 登山届け義務化に反対する

no.106 ノーベル賞

no.105 安全と教育意義のジレンマ

no.104 リスクは誰にでも顕在化しうる

no.103 子どもの学び

no.102 江戸の近郷 

no.101 山岳雑誌に見るリスクマネジメント・道迷い遭難

no.100 今昔物語

no.99 城南地形萌えラン

no.98 ナチュラル・ナビゲーション

no.97 地図を使わない・・・:学校の自然体験

no.96 ドクタージェネラル

no.95 ナヴィゲーションを支える身体知

no.94 リスクマネージメントとナヴィゲーションの発想

no.93 拡張現実

no.92 空間認知心理学の進歩

no.91 研修の楽しみ

no.90 ナヴィゲーターの難しさ

no.89 地図は邪魔者

no.88 暗黙知としての地図読み

no.87 クイックOの可能性

no.86 冬山でのナヴィゲーション(2012/3/20)

no.85 はやぶさ

no.84 ナヴィゲーションスポーツで脳も体も健康に!

no.83 ナヴィゲーション・スポーツというコンセプト

no.82 反事実的思考 

no.81 山岳遭難の現状2011

no.80 登山に地図を生かすには?

no.79 できる人は地図思考

no.78 時には悪天候も悪くない

no.77 赤色立体図はすごい

no.76 ナヴィゲーションへの組織的な動き 

no.75 生きて帰る 

no.74 現在地が分からない

no.73 折り紙の地形

no.72 緊急特集:道迷い遭難

no.71 読めないふり

no.70 女は地図が読めないか?

no.69 GPS vs 地図読み

no.68 ブラッシュアップ

no.67 学習登山 

no.66 大人はなぜつまづくのか? 

no.65 読図を教える

no.64 ゆらぐ

no.63 高まる読図への関心

no.62 富士山アウトドアマップⅡ

no.61 地形萌え

no.60 読図力とその自己評価

no.59 中高年遭難という言説

no.58 2008全国遭難対策協議会に参加して

no.57 死者は語る

no.56 あらためて知るコンパスの効用

no.55 地図屋の気概(3)

no.54 地図屋の気概(2)

no.53 コンパスをテストする

no.52 広がる読図講習会

no.51 今年もセンター入試:1/21

no.50 07年を振り返って

no.49 ナヴィゲーション・マスター

no.48 女性セブン

no.47 地図屋の気概

no.46 読図講習会で学んだこと 

no.45 ショップと共催の読図講習会

no.44 地図に訊け!

no.43 ハザードマップ実験をして

no.42 「考える力つく」地図帳

no.41 ロゲイン

no.40 尾根・谷を区別する 

no.39 地図から分かること 

no.38 センター入試再び

no.37 専門調査委員会に出席して

no.36 読図・ナヴィゲーションへの関心

no.35 冬眠

no.34 乗り過ごす

no.33 教育にオリエンテーリングを

no.32 地図物語

no.31 有度山ロゲイン

no.30 ブラックアウト再び

no.29 アウトドアショップの意気込み

no.28 危うく道迷い

no.27 海外遭難事情

no.26 地図で迷う

no.25 傾斜の感覚

no.24 実践の発想

no.23 『キルプの軍団』 

no.22 シルバの新しいコンパス 

no.21 香港でのハイキング  

no.20 地図を見る様々な視点 

no.19 ナヴィゲーションで「失敗学」しよう

no.18 被験者になる

no.17 定位を失う

no.16 地図という比喩

no.15 センター試験

no.14 GPSは役立つか

no.13 コンパスの使用説明書

no.12 読図講習会を行って

no.11 読み書きそろばん、ナヴィゲーション

no.10 ブラックアウト

no.9  方向音痴の人と街を歩く

no.8  ナヴィゲーションの生態学

no.7  究極のアウトドアマップ

no.6  地図への関心

no.5  あきれたガイドマップ

no.4  地図のアイデア商品

no.3  人はアウトドアで正しく地図を使えるか?

no.2  ナヴィゲーション用具の利用は難しい

no.1  狂ったコンパス 

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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2015年3月のシンポジウムのプログラムと村越の発表資料を掲載しております。

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