問題意識を共有する人との出会いは、多くの考えるヒントを提供してくれる。もう一回登山研修所の話。僕を講師として呼ぶことを思いついてくれたKさんは、国体の山岳競技でオリエンティアを同僚としていたそうで、そのオリエンティアから地図読みの奥深さに目覚めさせられたのだという。
僕が山と渓谷に執筆した読図検定で、Kさんがもっとも評価してくれたのが、a)右斜面、b)左斜面、c)尾根、d)谷の断面図があって、地形図上のあるルートをたどると、abcdがどんな順で現れるでしょうという問題であった。
Kさんくらいの技量の持ち主なら、特に難しく、考える楽しみがあるという問題ではない。進行する向きによって、自分の右手が低いのか左手が低いのかは変わる。両方が低ければ尾根だし、両方が高ければ谷底だ。日本は地形がはっきりしているので、道と斜面の方向をこの程度にとらえるだけでも、ずいぶん道迷いの発端を予防できるはずだ。そう思っての出題だったのだが、Kさんはその真意をずばり感じ取ってくれて、「あの問題で、ああそういう感覚って大事だな。確かに使える」と言ってくれた。
今回の講習も、概ね評判がよかったそうだが、Kさんからも研修のステップとしてどのようなものが必要なのかのヒントが得られたとの感想が寄せられた。
このような専門職が登山研修所にいることを頼もしく思い、彼の言葉を引用したい。
「フリークライミングでハイグレードを追求するのと同様に、実用的に必要かどうかは別にして、自分の現在位置を25000図の上に針で指し示す事ができるようになろうという向上心を(今回研修を受けた指導者たちが)読図においても持ってほしいなあと思いました」