トレイルランニングを末長く楽しむために


自然を満喫しながらランニングできるトレイルランニング。近年人気が高まって競技者も増加しています。

しかし、競技人口が増え、色々な問題点も浮かび上がってきました。

装備や準備の不足での事故、他の活動者からの苦情…。

 自分の安全を守るため、そして同じフィールドを共有する他の人たちと理解し合って競技を育てていくため、自然環境にダメージを与えないため、 トレイルランニングを楽しむための注意点を、個人で楽しむ場合、イベントに参加する場合、共通の事項に分けてまとめてみました。

● 常に心に留めたい3つのこと

写真からフィールドのリスクを読み取るトレーニングを紹介しています。リスクをイメージできることがリスクマネジメントの第一歩。是非一度挑戦してみてください。


自分を守るために

誰でも気軽に出来るのがランニング。トレイルランニングも気軽に始められるのは魅力です。でも、自然の中での活動であるトレイルランニングには予期せぬ危険とも隣り合わせな事を忘れてはいけません。

防ぐことの出来るリスクはしっかり防ぐ、危機管理の習慣も身につけましょう。

○個人での活動:リスク管理の主体はあなたです。どんなリスクがあるかを知り、またそれに備えてください。

○イベントの場合:道迷いしないコースの誘導からいざというときの救護体制まで、主催者は参加者の安全のために多くのことをしています。しかし、ロードレースと違い、どこでもすぐに救助や援助ができるわけではありません。イベントであっても、この点は念頭において参加してください。

● 自然の中のリスクを知る

事故を防ぐ最初のステップはリスクを知ること。あなたは、トレイルランニング中遭遇する危険やトラブルをイメージできますか?トレイルランナーも遭遇する山の危険として、以下のようなものがあります。示した対処法は一例です。

  • 道迷い:多くは低山で発生し、時には滑落・転落など重大な事故につながります
     →地図・コンパスを持ち、普段から使い方を練習しましょう。イベントでは大きな問題にはなりませんが、時々コースアウトが発生しています。個人での活動の場合には、地図での事前のコース確認は、必須です。
  • 滑落・転落:急斜面から落ちることで、重大な事故につながります。
     →周囲の地形に十分注意。危険箇所の見極めとスピードの調節を心がけましょう。
  • 転倒:不整地の路面や岩場で発生しやすく、捻挫・骨折といった意外な重傷になることも。動けなくなれば、、低体温その他のトラブルにも進行します。
     →不整地での走りを練習しましょう。テーピングの携帯も忘れずに。
  • 疲労・病気:高山では高山病、高齢者(60歳以上)では心筋梗塞などのトラブルが発生しやすくなります。
     →無理のないコース選択・行動を心がけましょう。イベントでは周囲につられてついオーバーペースになりがち。自分の調子には敏感になりましょう。
  • 熱中症・低体温症:気温や湿度が高い時には、熱中症が、逆に気温が体温より低ければ、夏でも低体温症が発生します。
     →熱中症には十分な水分補給。低体温症には、防寒具と日頃から十分なカロリー摂取を。特にイベントでは無理になりがち。体重×時間×5~8ml(目安)の水分摂取(例:60kgの人が5時間走るなら、おおむね60×5×8=2.4L。最低その6割摂取)を心がけましょう。
  • 悪天候:山の悪天候は命をも脅かします。雷はもちろん、雨も低体温、滑落など様々な派生的リスクを生み出します。イベントでも、長い距離や過酷な条件の下では低体温症事例があります。動けなくなっても保温できるオーバーウェアを持ちましょう)
     →天気の変化を常に意識するとともに、十分な装備を持ちましょう。
  • その他場所によっては動物・虫の襲撃、のリスクもあります。熊は毎年数人のけが、ハチは10人を越える死者を出しています。特に中高年で要注意。

● リスクに備える道具と装備

 適切な用具:出かける山にふさわしいウェアと靴ででかけましょう。山では100mで0.6度気温が下がります。特に停止した時には、寒くなりがちです。予備の防寒具を必ず携帯します。

  • ウェアリング:一例
    防寒具:暖かい季節ならある程度の保温が可能な軽いウィンドシェルが便利です。寒い時期なら雨具と兼用もよいでしょう。
    雨具:半日以上の行程なら、天気がよくても雨具(防水素材のもの)を携帯します。
    :岩の多い場所や滑りやすい場所でも対応できるトレランシューズを利用します。アッパーの側面の強度が十分なものが、不整地や岩地でも足を保護してくれます。
  • ザック
    体にフィットし、容量の小さ目のトレラン用ザックが便利です。
  • 水・食料
    トレランでは1時間体重1kgあたり8-10mlの水、エネ ルギーは同様に8-10kcalが必要だとされています。十分な水・食料に加え、常に非常用の水・食料を携帯します。なお、鹿屋体育大学の山本先生によれば、「水もエネルギーもいずれも体重1kgあたり1時間あたり、メッツに相当数量が必要だ」 ということです。メッツについての詳しいことはぜひ、ウェブなどで調べてください。

   短めのレースでも、30分以上エイドがない場合には、水分の携帯を心がけましょう。

 

  • 地図・コンパス
    地図・コンパスを携帯し、道迷いを防ぐとともに、エスケープルートを常に確保しましょう。個人でのトレランの場合は必須装備です。
  • セルフレスキュー用品
    サバイバルブランケット(防寒)、ヘッドライト(照明)、湿潤ばんそこ・テーピング(救急用品)を持って、トラブルに備えましょう。個人のレースはもちろん、長いレースでは、救急用品や防寒具は必須装備です。

ただし道具は万能ではありません!スキルと知恵があってこその道具です!常にその使い方についての学習に心がけましょう。

トレランシューズの一例
トレランシューズの一例
地図・コンパス・テーピング・サバイバルシート・ヘッドライト
地図・コンパス・テーピング・サバイバルシート・ヘッドライト

● 備えるべき知識・スキル

装備とスキルの両方で、初めて安全が守れます。

  • 自然環境への理解
    標高による気温の低下、天候の変わりやすさ、救助活動時の困難など、自然環境の特性を理解し、常に対応力の習得に努めましょう。
  • 体力・ランニングスキル
    行程に対応できる体力、ランニングスキルを身につけましょう。ぎりぎりで走りきるのではなく、余裕を持って走りきれる行程の計画が肝心です。道迷いとされる山岳遭難の相当数は日没、つまり計画時点での無理が原因だと思われます。
  • 読図・ナヴィゲーション力
    地形が分かるレベルの読図力と、道に迷わないためのナヴィゲーションスキルを身につけましょう。
  • 救急法
    捻挫対応のテーピングをマスターしましょう。そのほかにも止血、救命救急、搬送法、効果的な救助要請の方法等、いざという時慌てない救急法を身につけましょう。

自然環境への配慮とフィールドを共有する他者への配慮

トレイルランニングは、その土地で生活する方々をはじめ、登山やハイキングを楽しむ方ともフィールドを共有するものです。そんな多くの他者への配慮は絶対に忘れてはいけないマナーです。

競技者が気付かない所で、他者へ不快感や恐怖心を与えているかもしれません。トレイルを走るという事自体が競技者以外からすると、危なく見えるものなのです。

「自分は分かっている」と思い込まず、もう一度確認して思い返してみてください。

  • ごみは絶対に捨ててはいけません。特にジェルやサプリの切れ端に注意しましょう。
  • トレイルをはみ出し、路傍の草を不用意に踏むのを避けましょう。ショートカットはもちろん禁止。裸地の広がりは自然保護上、もっとも懸念されています。
  • 他の活動者にあったら、安全で礼儀正しい追い抜き・すれ違いを心がけましょう。
    ・少し前からスピードを落とす。
    ・脇を通過するときには歩く。
    ・自分が谷側を通過。挨拶も忘れずに。
    ・斜面では登り優先と言われていますが、臨機応変に。ただし上にいる下っている方が動くと、落石等の危険があることも意識しましょう。

 

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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