コラム131:山のお約束

 ヨーロッパの登山国と言えばスイスやドイツが思い浮かぶだろう。スイスには世界から登山家が目指す山あるので当然の印象だが、登山の国民的広がりという点ではノルウェーも負けていない。登山をする人が人口のどの程度の割合を占めるかについての統計では、日本の登山人口は8-10%ということになっている。これは1年に1回以上登山・ハイキングをする人の割合である。15歳以上が対象なので、概ね800-1000万人という数になる。

 

 同様の統計(年に1回以上)でノルウェーはなんと90%が登山人口なのだ。少し古い統計だが、人口約400万人強のノルウェーにあって、登山連盟(正確にはトレッキング連盟と呼ぶべきであるが)の加盟数は20万人。20人に一人が加盟員なので、日本で言えば600万人近い会員がいることになる。連盟によって全国各地の登山ルートにマーキングや山小屋の整備がなされている。

 

 先日ノルウェーを訪れた時にも、山国ノルウェーらしさを感じさせる経験をした。五輪で有名になったリレハンメルの普通のお土産屋に寄った時のことだ。写真のような紙ナプキンがお土産に売っていたのだ。その国らしい風景や意匠の図柄を描くお土産用紙ナプキンは珍しくない。この紙ナプキンに書かれている「fjellvettreglene」は英訳すればNorwegian Mountain Code、つまりは山登りのための規範、という意味で、その9箇条が書かれているのだ。この「お約束」は英語にも訳されて、ウェブでも見ることができる(https://www.fjellforum.no/forums/topic/4416-the-norwegian-mountain-code-fjellvettreglene-in-norwegian/

 

 「よく準備して入山しよう」「地図とコンパスを使おう」などは日本にもそのまま当てはまる。ただし地図とコンパスの使い方については、文章末に示したように、ナヴィゲーションの中でどう使うべきかについてのより具体的な方法が指摘されている。そのほかの7項目の中でノルウェーらしいものと言えば、他の一般的な項目に並んで「体力を温存して、必要なら雪洞を作りなさい」くらいだろ 

う。山で自分の身を守るためにすべきことは世界のどこでもあまり変わらないということだ。

 

 個人的に興味深かったのは、「あなたのルートについての言葉を残しなさい」差し詰め日本なら「登山計画書を提出しましょう。」だが、それをより本質的な「ルートについての言葉を残す」と表現している点が注目に値する。もっとも昔はなかった「notification box(ルートについての記載書入れ箱)が小屋や山頂に設置されているところを見ると、本来あるべき山の習慣についての規範がノル 

ウェーでも崩れつつあるのかもしれない。

 

use map and compass(上述URL英語版より)

Always have and know how to use map and compass. Before departing, study the map and trace your route to gain a basis for a successful tour.  

Follow the map, even when weather and visibility are good, so you always know where you are. When visibility deteriorates, it can be difficult to determine your position. Read the map as you go and take note of points you can recognize. Rely on the compass. Use a transparent, watertight map case attached to your body so it cannot blow away. Take bearings between terrain points on the map that can guide you to your goal. Use the compass to stay on a bearing from a known point.

 

日本語訳

 地図とコンパスを常に持ち、そして使い方を知っておきましょう。出発前に地図を注意深く眺め、あなたのルートを地図上でたどることでトレッキング成功のための基礎を得ておきましょう。天候と視界がよい時でも地図上で場所を追い、いつでもどこにいるか分かるようにしておきましょう。もし視界が悪い時には、現在地を把握することは難しくなるかもしれません。進む時に地図を読み、認識 

可能なポイントを意識しておきましょう。コンパスを信じましょう。透明で耐水性のあるマップケースを使い、風で飛ばされないように身体に付けておきましょう。地点間では進行方向を把握することで、目標地点までそれによって誘導されるようにしましょう。そして既知の点からの進行方向から離れないようにコンパスを使いましょう。

 

 

「山のお約束」を書いたお土産用紙ナプキン

山頂に設置されたルート記載書入れ


NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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