コラム142:地図が読めれば生き残れる!?

 大学の防災の授業で、ハザードマップを紹介し、その使い方を学ぶという内容を扱っている。ハザードマップとは、火山や地震、風水害などの自然災害の影響範囲を記すことでそれらに備えるための地図である。21世紀に入ってから、多くの自治体で作られ、ウェブでは風水害と津波、についてのシームレスな地図を見ることができる。

(ハザードマップポータル:http://disaportal.gsi.go.jp/

 

 授業で対象にしたのは風水害の地図で、地図上に記した6点に、住みたくない順(つまりは危険度の順)に順番を付けるという課題だ。その結果が読図能力という点からも、個人のリスクマネジメントという観点からも興味深い。

 

 風水害は大きく2種類に分けられる。土砂災害と洪水だ。土砂災害は地すべり・崖崩れと土石流に分けられる。前者は急斜面が崩壊するもの、後者は渓流から水と土砂が押し流され、平野部にぶちまけられることで、被害が生じるものだ。数年前の台風による広島の災害も土石流だ。これらの風水害はその内容から分かるように、地形に依存している。洪水は低地に起こりやすいし、土砂災害は急斜面の下部に影響を与える。特に土石流は、谷口から扇状に広く影響を与える。ハザードマップポータルは地形図に重ね合わせて表示されるので、このことは「一目瞭然」である。

 

 この課題を学生に対して実施すると、意外と正しく回答できないことが分かった。初見ならそれも仕方ないだろう。しかし、この課題の前に、学生が住む大学周辺の地形図を使って、各自で予測させ、さらに等高線を強調した地形図とオーバーレイさせたものを提示し、どんな場所が災害の影響を受けやすいのかを考えさせた上でのことだ。もちろん、洪水なら低地、土砂災害なら急斜面との関係が大事だということは彼らも答えることができる。

 

 回答理由を聞いてみると、地形図から地形がうまく把握できていないようだ。等高線が読めるものにとって平らな低地、急斜面、あるいは渓流の谷口は自明なものだが、多くの人にとってはそうでもないらしい。

 

 災害において、「想定外に備えること」の重要性が指摘される。それは結局は一般的に想定されている以上のことを想定せよという意味に過ぎない。自分で災害の影響を想定する時、なんらかの手がかりがなければ、その想定はデタラメな妄想に過ぎない。災害がどのような特徴で発生するのか、そして、空間の中でその特徴を把握できることは、想定が意味あるものである必要最低要件となる。地図が読めるこということは、その重要な構成要素となる。

 

 なお、上に示したハザードマップポータルで身近な洪水影響範囲を見る時の重要な注意として、デフォルト表示では中小河川の洪水影響範囲が表示されない点が指摘できる。「表示」マークのついていない「計画洪水影響範囲」を表示させて調べることが必要だ(「全部表示する」を選択してもよい)。

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