コラム60 読図力とその自己評価

文部科学省の登山研修所の協力を得て、登山者の読図力に関する調査を実施している。調査はこれまでも利用してきた質問紙による読図力の自己評価と、実際の地図を使った等高線読解等の客観的調査からなる。調査の狙いは二つあった。

 

一つは、登山者の読図力を客観的に把握することである。「道迷い遭難が多い」←「登山者の読図力に問題がある」という素朴な仮説でこれまで講習を行なってきた。しかし、登山者の読図力がどの程度のレベルなのかは、実は正確には分かっていない。講習会の参加者たちの読図のレベルは、講習をやっていれば概ね分かる。しかし、ある程度登山経験がある中堅の登山者たちが、どの程度読図力を持っているのかは分からなかった。これを把握したかった。

 

第二に、質問紙による把握の客観性の検証である。これまでも講習会では簡便な方法として、質問紙で自分の読図力を把握してもらってきた。しかし、回答者が正確に自分の読図力を把握しているとは限らない。質問紙には必ず「妥当性(質問項目が現実のスキルと確実に対応しているかどうか)の検証」という手続きが必要だ。これは1日の講習会という限られた時間ではなかなか実施できないので、登山研修所の宿泊研修は、このような調査をするのには貴重な機会となった。

 

詳細な結果についてはいずれ発表の機会を持ちたいが、最も興味深かったのは、自己評価と客観的なテストの間に相関(関連)が見られなかった点である。両者の関係をグラフ化してみると、その原因が浮かび上がってくる。客観的なテストの点が上がるに従って、自己評価の低い人は少なくなる。その意味では、両者の間に関連がある。しかし、客観的なテスト成績の低い人の相当数で自己評価が高い人がいるのだ。つまり、客観的なスキルが上がれば、自己評価もある程度正確にできるが、客観的なスキルが低い人の中には自己評価が正確でない人がいるのだ。

 

客観的テストの点が低いことも問題だが、自己評価がそれに対応していないことはもっと問題である。なぜなら客観的なスキルと自己評価が一致していれば、たとえ今はスキルが低くてもそれを自覚して行動したり、高めようというモティベーションが働く可能性が高い。一方、客観的なスキルと自己評価が対応していなければ、そういうことは起こらない。

 

テストはいくつかの側面からなるので、自己評価と客観的なスキルがうまく対応していない人たちの特徴を詳しく分析することもできそうだ。研究的にも実践的にも非常に興味あるテーマである。

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

活動をサポートして下さる方を募集しています

2015年3月のシンポジウムのプログラムと村越の発表資料を掲載しております。

初心者に最適なコンパス、マイクロレーサー