3月15日、世界最強棋士とグーグル・ディープマインド社の人工知能「アルファ碁」の対決は、アルファ碁の4勝1敗で幕を閉じた。1997年に 人工知能ディープブルーがチェスで世界チャンピオンガスパロフを打ち破った時には衝撃とともに受け入れられた。今ではもっと手数の多い将棋でさえ、トップ棋士と同等の力を持っているので、ニュース自体にそれほどの衝撃は感じられなかった。それ以上に目立つのは、囲碁界(あるいはトップ棋士)が、この敗戦をかなり前向きかつ建設的にとらえていることだ。
李棋士は対局後の会見で「まだ人間が十分に相対できるレベルだと思う」と評価した後で、「アルファ碁を見ていると人間の打つ手がすべて正しいのか疑問に思った」とも述べている。TVで見た日本の棋士も、「これまで悪手だと思っていた手が意外とそうでもない」と感想を述べ、ポジティブにとらえれば(人間の)囲碁の世界もまだ広がる可能性がある、と結んでいた。駒が擬人的に相手の王を仕留めるチェスや将棋に比べて、陣取りだという囲碁の特性が大きいのかもしれない。
一方で、人工知能自体を擬人化するコメントも興味深い。「(人間とは)見えているものが違う」「どう考えているか話せるものならば聞いてみたいし、もっと対局を見たい、囲碁の神髄に近づけるかもしれない。」伝統の中で棋士たちは実力を高めあってきた。その背後には定石などの共通の知識と文化がある。一方で、棋士とは違う学習をしてきた人工知能には、同じ盤面を見ているはずなのに、違うものが見えている。その違いが何に由来するのか、またその違いが何を生み出すのかを知ることは、一つの文化の中で成熟した状況からブレークスルーする大きな契機になるのだろう。
3月半ばに、ナヴィゲーションの練習の一環として、「ガンダム・オリエンテーリング」を試してみた。これは、一人がモビルスーツ役、一人がアムロ(あるいはセイラか)役となる二人組のオリエンテーリングだ。ナヴィゲーション版二人羽織というと分かりやすいだろうか。アムロが地図を読み進路をガンダムに伝える。一方でガンダムはコンパスを使ってアムロの指示通りに移動する。「あそこの」「あの白い建物」といった指示語は御法度である。最初は、うまく情報が伝えられなかったり、情報を伝えすぎてガンダムが混乱したりする。読めたつもりになった地図情報を人に伝えようとすると、改めてその曖昧さが露呈する。実態として見えていない世界があるのだ。方向にしても、15度右に、というと、ガンダムは自分の感覚では25度 くらい右を向いたりする。わかりきった言葉を使っているように思っても、同じ言葉が意味するものも違うことを痛烈に感じることのできる体験だった。
参加者の感想を聞くと、それを通して、どのように世界を見ることが有効なのか、を感じることのできた練習だった、あるいは仕事にもつながるスキルですね、という人もいた。囲碁棋士や人工知能の対決とはレベルは違いこそすれ、違う見方を学ぶことが、スキルを高める契機になることだろう。