前回のコラムで紹介した全国遭難対策協議会では、毎年警察庁から前年の山岳遭難の統計発表がある。平成19年の山岳遭難は、1809名で、人数こそ45人減少であるが、件数は1484件と前年比+67件であった。また死者・行方不明者は259名で19人減少。道迷い遭難は628名で34.7%。一昨年と比較すると4ポイント程度減少しているが、遭難原因としては、依然もっとも多い。そういう事情が、2年という短期間にもかかわらず、僕のところに再び講演依頼が来た理由でもあろう。
全遭難者に対する死者・行方不明者の割合は14.3%であるが、単独遭難者中では、24.6%である。単独行での遭難リスクは複数での山行の1.7倍になる。 近年、救助要請は携帯電話によることが多いが、昨年も47.7%と約半数が携帯電話による救助要請を行なっている(50%近くは救助要請なしなので、連絡があったケースのほとんどは携帯によることになる)。携帯電話の利用については是非の議論はあるが、早急な遭難救助に役立っていることは間違いない。ただし、低温だと電力低下で使えない、圏外では基地局の探索により電池の消耗が早いので電源を切っておくなどの示唆もなされていた。直接聞いても、「山での道迷いは緊急事態なので遠慮せず掛けてほしい」という。
同じような場所で、同じように携帯を使っても生死を分けるケースがある。S県の遭難のケースでは、遭難者は家族に「道に迷った」と電話したものの、実際に家族が警察に捜索依頼を出したのは翌日だった。この遭難者は結局その日の夕方近く、ようやくヘリによって発見されたが、その時には滑落によって死亡した後であった。一方別のケースでは、近くの町役場に電話したので、素早く救助活動に移ることができ、命拾いをしている。
ただ、もっともシェアの多いドコモの場合、ムーバからフォーマへの移行により基地局からの圏内距離の減少が問題になっている。都市部では基地局を増やすことでフォーマの方がつながりやすいそうだが、山岳での通話可能圏内が減少している怖れがあるらしい。現在、各地で携帯の接続状況を確認中だという。こんな情報もより詳細かつ正確に登山者に流してほしいものだ。
警察庁の発表の中で紹介された各警察本部の防止策が興味深い。富山では冬山への安全カードを配布。岐阜では防災ヘリ等を利用して空中写真とともに雪崩遭難防止のための危険マップのHP掲載や登山口での広報を行なっている。私自身もMnop会員の山下さんから紹介された埼玉県の「秩父安全山歩き検定」の紹介をしたが、警察庁の方もこれを紹介していた。こんなゲーム感覚でもいいから、山の安全への意識が高まることは望ましい。