コラム バックナンバー 141-160

2019年

11月

17日

コラム142:地図が読めれば生き残れる!?

 大学の防災の授業で、ハザードマップを紹介し、その使い方を学ぶという内容を扱っている。ハザードマップとは、火山や地震、風水害などの自然災害の影響範囲を記すことでそれらに備えるための地図である。21世紀に入ってから、多くの自治体で作られ、ウェブでは風水害と津波、についてのシームレスな地図を見ることができる。

(ハザードマップポータル:http://disaportal.gsi.go.jp/

 

 授業で対象にしたのは風水害の地図で、地図上に記した6点に、住みたくない順(つまりは危険度の順)に順番を付けるという課題だ。その結果が読図能力という点からも、個人のリスクマネジメントという観点からも興味深い。

 

 風水害は大きく2種類に分けられる。土砂災害と洪水だ。土砂災害は地すべり・崖崩れと土石流に分けられる。前者は急斜面が崩壊するもの、後者は渓流から水と土砂が押し流され、平野部にぶちまけられることで、被害が生じるものだ。数年前の台風による広島の災害も土石流だ。これらの風水害はその内容から分かるように、地形に依存している。洪水は低地に起こりやすいし、土砂災害は急斜面の下部に影響を与える。特に土石流は、谷口から扇状に広く影響を与える。ハザードマップポータルは地形図に重ね合わせて表示されるので、このことは「一目瞭然」である。

 

 この課題を学生に対して実施すると、意外と正しく回答できないことが分かった。初見ならそれも仕方ないだろう。しかし、この課題の前に、学生が住む大学周辺の地形図を使って、各自で予測させ、さらに等高線を強調した地形図とオーバーレイさせたものを提示し、どんな場所が災害の影響を受けやすいのかを考えさせた上でのことだ。もちろん、洪水なら低地、土砂災害なら急斜面との関係が大事だということは彼らも答えることができる。

 

 回答理由を聞いてみると、地形図から地形がうまく把握できていないようだ。等高線が読めるものにとって平らな低地、急斜面、あるいは渓流の谷口は自明なものだが、多くの人にとってはそうでもないらしい。

 

 災害において、「想定外に備えること」の重要性が指摘される。それは結局は一般的に想定されている以上のことを想定せよという意味に過ぎない。自分で災害の影響を想定する時、なんらかの手がかりがなければ、その想定はデタラメな妄想に過ぎない。災害がどのような特徴で発生するのか、そして、空間の中でその特徴を把握できることは、想定が意味あるものである必要最低要件となる。地図が読めるこということは、その重要な構成要素となる。

 

 なお、上に示したハザードマップポータルで身近な洪水影響範囲を見る時の重要な注意として、デフォルト表示では中小河川の洪水影響範囲が表示されない点が指摘できる。「表示」マークのついていない「計画洪水影響範囲」を表示させて調べることが必要だ(「全部表示する」を選択してもよい)。

2019年

7月

07日

コラム141:時代

毎年、初夏になると警察庁から、昨年の山岳遭難の概況が発表される。夏山の登山シーズンに向けて、警鐘を鳴らす意味もあるのだろう。その報告も合わせて、全山遭(全国山岳遭難対策協議会)が開催される。この協議会、数年前までは各県持ち回りで行われていた。各都道府県の救助活動お国自慢のような部分も正直あった。遭難対策とは言え、救助活動、つまり何かが起こった時のダメージコントロールが主として紹介されていた。

 

 各県持ち回りから東京での毎年開催になってから、内容が変わりつつある。ダメージコントロールから、未然防止も含めた対策へ。長野県あたりが総合的な山岳遭難対策を打ち出した頃と軌を一にしている。

 

 7月5日に開催された今年の協議会は、一段と先鋭化の度合いを増していた。圧巻だったのは富山県自然保護課の「安全登山対策の更なる充実に向けて」という報告書である。未熟な登山者が圧倒的に多いというリアリズムに基づき、ダメージコントロールと未然防止という二つの側面から、安全登山の対策をまとめたものだ。さらに、未然防止とダメージコントロールをソフト(対人管理)/ハード(対物管理)でマトリクスにし、総合的な安全登山の名に恥じないものとしている。自助共助公助といった災害対応では当たり前のようになっているが、遭難救助ではパターナリズムのもとで忘れられがちな視点も盛り込まれている。

 

 IT関係の技術による遭難防止、遭難救助の発表が多かったのも今回の特徴だった。日本山岳ガイド協会が運営している登山届提出サイト「コンパス」と連動したドローンによる遭難者発見の実証実験の話も興味深かった。「コンパス」というサイトがあることは知っていたし、そこには下山届を出したり、それをチェックして、下山が確認できない場合には家族等に連絡する機能もあることは知っていた。さらに、スマホを持っていれば登山者の通過を自動的に把握できる「スマート道標」によって、通過位置の特定まで可能になるという。この発表では、それにドローンを組み合わせて、行方不明者の捜索を効率的に行えるという。「コンパス」をプラットフォームにして、遭難対策が効率的に展開される可能性が提示された。

 

 こうした技術が進む中、登山者が「持っていさえすれば安心」「持っていれば助けてもらえる」という人任せになることには懸念がある。ドローンによる実証実験を行った鳥取県も、警察官は全県で1000人ほど。実際に、実証実験ほどの捜索隊を編制できるのかという危惧もあるという。こうした意味でも、山のリスクに対しては自助が基本であることは変わらないと感じた。自らリスクあるが故に魅力的である場所に入っていること、まずは自分での対応が求められていること、それと同時に、リスクに対応すること自体が山の魅力だということをより多くの登山者に理解してもらうことも重要な課題だ。

 

 こういう全国協議会というのは、「遭難は漸増傾向、高止まりが続いている。我々が頑張ろう!」という勇ましいスローガンに終わりがちだが、だが、現実には限られたリソースでやっていかなければならない。救助隊も組織である以上、自分たち自身の安全にも留意してやらなければならない。コンプライアンスも重要だ。そうしたジレンマの中で山岳救助もやっていかなければならない。遭難救助のリアリズムが強く意識しているという点でも、画期的な協議会だった。

 

(写真は富山県自然保護課の発表)

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