7月7日の全国遭難対策協議会の講演を依頼されたので、4年前の2007年に続いて、山岳遭難の現状を分析することにした。今回は全国全ての警察本部に情報提供を依頼し、37警察本部より山岳遭難データの提供を受けた。震災で多忙を極める県からも提供を受け、こちらが恐縮してしまった。結果として、全国の遭難件数の約75%、登山に限ると80%のデータを入手することができた。
結果の詳細は山と渓谷9月号に5pに渡り掲載したので、ここでは簡単にその概要を紹介しよう。
2010年の遭難は前年に比べて約300件という大幅な増加となり、2396名となった。遭難多発年代は60歳代である。中高年の遭難多発、とひとくくりにされているが、60歳代の遭難数は突出している。70歳代はその半数以下だし、50歳代も6割といったところだ。もちろん60歳代の登山人口も多いのだろうが、体力的な変化にも関わらず、まだまだ本人は元気だと思っているといった心身のギャップなども原因なのかもしれない。
道迷い遭難は男女を問わず、ほぼ全ての年代で最多の態様(原因)となった。特に40歳代以下では、他の態様に比べても突出している。これは現在の登山ブーム前の2007年にはみられなかった現象である。個々の事例を見ると、いわゆる山ガール・山ボーイが気軽に登山をして安易に救助要請をしているのではないかと思わせるものもあるが、全体として若年層の遭難の経緯がどうかという点については、残念ながら資料のみでは十分なことは言えない。
誰でも一度は経験があると思われる転倒が、50歳代-60歳代でピークとなる。これはバランス能力や筋力の低下にもかかわらず、この年代ではまだハードな山登りをするからだろう。しかも、転倒は意外にハイリスクで、重傷が半分を占める。
病気のリスクも60歳代の男性で高い。50歳代以上の病気遭難は男女合わせると56名だが、そのうち29人が死亡。その全てが男性である。
これらに比較すれば道迷いは、数は多くてもリスクはあまり高くない。しかし毎年数件の死亡を出している。また、最終的に滑落・転落に至った事故は道迷いには分類されていないが、記述された経緯から拾い出すと、高山ではその割合は決して低くない。道迷いの場合、それ自体が問題というより、そこで冷静さを失い、けがのリスクを高めていると思われる。また道迷いの原因の多くは地理不案内、つまりはナヴィゲーションスキルや地図利用の問題だと思われるが、その他にも日没、パーティーの分離など、も多い。道迷い遭難の減少のためには、ナヴィゲーション技術だけでなく、登山についての総合的な対策が必要だと思われる。