この4月に私が住む団地に奇しくも引っ越してきた昨年の山岳耐久レースのチャンピオン相馬さんに触発されて、最近は山を走りに行く機会が増えた。先週も静岡市の象徴的山である竜爪山まで、草薙そばの丘陵の先端から尾根づたいにトレイルを走った。10年近く前に学生を連れてトレッキングをしたことがあるし、基本的には北にまっすぐ延びる尾根をたどればよいが、エスケープルートの事も考えて地図を持つことにした。コンパスはさすがにいらないと思ったが、リストコンパスを念のため持って行くことにした。このコンパスなら手に持つ煩わしさもないし、必要な時にすぐに方向を確認できる。実際に使うことは全く考えていない、リスクマネージメントのつもりであった。
前半は、半分記憶を頼りに尾根道をがんがん上がっていった。中間の目標地点穂積神社の近くでは北に延びる尾根道を進み、最後に左(西)に折れて尾根を下ればよい。地図では西に分岐する尾根ははっきり分かるので、それを意識しながら気持ちのよい尾根道を走っていった。ポピュラーな登山コースとは言い難いこのコースでは、針葉樹林の中ではヤブに覆われているということはないものの、逆に踏み跡が残りにくくて、地形との関係と方向を気にしないと道を外しやすい。そこで、明確に踏み跡のある尾根上を進んでいった。ふとリストコンパスをつけた左手を身体の前に止めて見ると、磁針の赤い方が身体の正面方向より左に振れているではないか。つまり進路が北東よりになっているということだ。確か尾根道の方向は、ずっと北より少し西よりであって、穂積神社への分岐の後、ようやく尾根道が北東に向くはずだ。地図を見直してみてもやはりそうだ。つまり穂積神社への分岐を見逃したのである。
少し戻ってみると、さきほど踏み跡が消えかけて前方に続きを発見したと思った部分で、左に直角に折れなければならなかったのだ。この部分には倒木で×印が作られていたが、疲労で頭が少しぼーっとしていたのと、その先の踏み跡が先に見えて、全くそれには気づかなかった。もしコンパスがなければ、その1kmくらい進んで下りから登りに転じた時点でようやく気づいただろう。
本などには紹介しているものの、それをオリエンテーリング以外で体験できたのは久しぶりであった。コンパスの危機管理機能を改めて実感することになった。