コラム126:データベースの威力

 日本スポーツ振興センターが、学校事故データベースというのを公開している。毎年の負傷・障害・死亡の統計と死亡・障害については簡単な記述がこれまでにも冊子として公開され、pdfやエクセルでもデータ提供がなされていたが、近年、死亡・障害については検索も可能なデータベースとなった。学校(幼稚園から高等専門学校)に至る通院を必要とした事故のほぼ全貌が分かるデータベースである。

http://www.jpnsport.go.jp/anzen/Tabid/822/Default.aspx

 

 「学校のリスクマネジメント」という授業で、これを使った実習を試みた。「データベースを使って興味のある事故について調べ、それがどのようにカテゴリー化できるか、またその背後にある要因は何で、対策として何が考えられるか。」これが思いの外興味深かった。事故は突き詰めていえば、人的要因(不適切な行動)と環境要因(ハザード)によって発生するが、事故内容やその状況によって、それらの具体的様相は異なる。学生の興味によって調べることで、5000件を越える雑多な事故の一部かもしれないが、重要な整理の見通しがたち、こちらも勉強になった。理論物理学には学生レベルで取り組める問題は少ないが物性分野ではいくらでも研究主題が転がっており、その中にはその後の大発見につながるようなテーマがある、というのと似ているかもしれない(これは私の認識なので、現状としてはそうではないかもしれませんが)。

 

 たとえば、特別活動中の事故といえば近年組み体操(運動会)が注目を集めているが、死亡事例で一番多いのは給食中で、過去11年間で21件である。もちろんこれらの中には突然死も一定数あるが、それ以外の3大原因としてはアレルギー、のどに詰まらせる、食中毒があり、前2者が比較的多い。こうした事実だけでも教員の見る目が変わる可能性がある。

 あるいは、課外活動の中でもっとも事故の多い野球の原因は①ボールの直撃、②そうでない事故に分けられるが、①では死亡事故は発生しておらず、②では熱中症による死亡、落雷、ふざけてヘッドロックを受けた生徒が死亡など多様なリスクが見て取れる。

 

 これは授業中ではないが、リスクを研究している指導院生がこんなことを調べた。近年大問題になって、この半年で大きく動いた組み体操(教育委員会によっては全面禁止である)は確かに発生件数が多いが、種目別に見ると、中学校では、むしろ準備・整理運動の方が事故が多いのだ。本来、運動由来のけがを防ぐための準備・整理運動でこれだけの事故が起こっているなんて、データを実際に見なければ想像だにできないだろう。しかも、組み体操なら止めれば済むが、準備・整理運動をやめることは難しいだろう。馳文科大臣は「組み体操は危険な状況になる可能性のある教育活動」(2016/2/10朝日新聞)と指摘したが、準備・整理運動はもっとリスクが高いかもしれない。リスクは多面的に見なければ、エネルギーの投入先を間違え、結果として別の大きなリスクを見逃してしまう可能性にもつながる。研究者が肝に銘じなければならない点だと痛感した。

 

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