中高年の登山者人口が増えた。だから、これまでのような悪天候・冬山・岩場での遭難に代わって道迷いが増えたのだ。登山界では一般にそう信じられているし、僕もそうだと思っていた。今回の遭難対策協議会のために、元データを県警本部から取り寄せて分析してみた。このデータは、10県分のデータだが、件数・人数ともに全国の遭難数の3割を占めている。若干地域的な偏りがあるが、統計的に推論するデータとしては十分な割合だろう。
驚いたことに、登山目的に限ると、確かに道迷いは50-60歳代が多い。しかし、20-30歳代にもその半分に匹敵する山が見られるのだ。これは全く意外だった。登山目的以外ではこのような山は見られない。おそらく全遭難数の20%を占める山菜取り(登山関係はほぼその3倍)では圧倒的に中高年が多く、しかも、遭難態様も道迷いが多くを占めるのだ。だから、そのデータに埋もれて、登山での若い層の道迷い遭難の危険が看過されてきたのだろう。警察庁のデータはほとんどが単純集計で、クロス集計は月別などあまり重要でない項目間のものが多い。有効なクロス集計をしてみないと、こんなこともがわからないのだ。
他にも興味深い事実がいくつも見つかった。前にも触れたように、統計では他の態様に分類されるものでも道迷いを発端とするものは道迷い数の10%を越える。道迷いは一般的に「安全な」遭難態様であり、9割の人がほとんど無傷に近い状態で発見される。しかし、道迷いに分類されない「潜在的道迷い」では、概ね1/3が死に、1/3が重傷である。道迷いの結果どうなるかは、登山者の行動に依存する。結果として道迷いに分類されるかその他に分類されるかは初期の道迷いとは無関係である。焦って行動すれば、その死傷リスクは大幅に高まる訳だ。道迷いをなくすことも重要だが、道迷い後のダメージをコントロールする方法を啓発することも重要だと言えるだろう。
なお、遭難者数はほぼ横這い(-45名)だったが、道迷いは90名ほど減少している。他にも50人クラスで増減している項目はあるので、単年度の現象なのかもしれないが、喜ばしいことではある。
なおこの集計結果はいずれ発表予定である。