コラム99 城南地形萌えラン

神社や寺院は今でも残っており、チェックポイントとして使える
神社や寺院は今でも残っており、チェックポイントとして使える

昨秋、「東京時層地図」というIpadのアプリが出た。東京の明治初期から現代までの7時点での地図を、2枚、対照させながら見ることのできるアプリである。Ipadのアプリなので、様々な工夫がある。1方の地図を動かすと、他方も連動して動く。一方を拡大、縮小すれば、他方もそれに合わせて大きさが変わる。ソフトを購入した日は、日がな眺めて飽きなかった。

 

遊んでいるうちにひらめいた。この古地図を使って東京郊外でオリエンテーリングをしたらさぞかし面白かろう。何しろ、当時は渋谷ですら全くの農村+里山であった。明治期の地図に載っている建物、道路は、その多くが現存しない。一方で、地形は大規模は改変は少なく、結構頼れそうだ。また旧街道も「けもの道」のように、進むのは役立つが方向や距離を維持しながら使わないとロストの危険がある。それは裏を返せば、 等高線や地形を使ったナヴィゲーションの実践や練習が都市部でもできるということを意味する。

神社や寺院は今でも残っており、チェックポイントとして使える
神社や寺院は今でも残っており、チェックポイントとして使える

2月22日、「城南地形萌えラン」と称して、この試みを蒲田から大森の北西にある台地のエリアで実践した。馬込と呼ばれるこのエリアは、九十九(つくも)谷とも呼ばれている、武蔵野台地が開析されてできた複雑な尾根・谷と台地上の微地形が特徴的だ。

 

もちろん、地形だけでは十分ではない。谷はどんどん分岐する。谷を縁取る斜面もビルに隠れて見えない。そんな中で進路に自信を持つためには、方向確認も欠かせない。方向で谷筋を確認し、ときどき得られる眺めで地形の片鱗を確認し、正しい進路にいることや現在地を確認する。さな がら、東欧の広大な森の中でオリエンテーリングをやっている気分なのだ。

 

時には、現在の道も利用できる。清水窪と呼ばれる北千束の谷間から周辺から荏原町の北側にある旗岡八幡宮を目指した時だ。この区間は特徴の少な い台地を横切る。しかも旗岡八幡宮も台地上の緩やかな谷の北縁にあるなだらかな尾根上にある。いずれもナヴィゲーションが難しい場所だ。まずは、 比較的主要道らしい地図上の道をたどることを考えた。いずれにしろこの方向にいけば、洗足池から北東に向かって延びる細長い谷に出る。そこを チェックポイントにして、荏原の谷に慎重に入り、台地の下縁の傾斜変換をガイドラインにしながらその方向が南東から東に変わるところを捉えて、台 地にあがるというプランを立てた。大自然の中で地形を頼りに行うオリエンテーリングそのものだ。

 

清水窪から出ると、環七通りが走っていた。その方向を読み取ると、地図上の主要道に沿っている可能性が高い。環七を歩測で距離を維持しながら進 む。途中、右側の谷頭(こくとう)を確認できたらラッキーと思っていたが、実際に歩道の右脇の区画が5mほど低く、道路と直角方向に沢状に延びて いる谷頭のが確認できた。そこから少し方向を南に振って約500m。ここも、歩測をしてみると、ずばり500mが近づくところで、中原街道が左右 に延びる谷の中を通っているのが確認できた。

 

本格的なナヴィゲーションの練習として十分通用する。都市の仮面の下に隠された地形に対する感受性を高め、土地の歴史を偲ぶのにもいいプログラ ムだ。参加者の感想にも「地図1枚あるだけで、土地に対する見方が変わる」という感想が見られた。それまでただの坂道だった場所は、「台地になっ ているから、その側面にある斜面が見えている」といった地形を構造的に把握しようとする見方になる。私自身、いつの間にか、建物の蔭で見えない地 形を頭の中で常にイメージし、イメージ化された地形の中で走っているような気分になった。

 

4月19日には、「かるがもとーさん」という通称名をお持ちの世田谷在住のオリエンティアがやはり昭和初期の地図でロゲイニングをやるようだ。ぜひおすすめしたい。

 

現代の地図
現代の地図
実際のナヴィゲーションに使った明治期の地図
実際のナヴィゲーションに使った明治期の地図

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