コラム133:南極観測に地図は必要か?

 11月27日より、3月23日までの予定で、第59次南極地域観測隊に同行する機会を得た(注1)。南極観測隊といえば、過酷な自然環境の中での研究活動というのが思い浮かぶ。確かに越冬は零下40度にもなる環境と、ブリザード等の致命的な気象条件の中で孤立して約1年間過ごすという点で、現在でもその過酷さは変わらない。一方で、私が同行した夏隊は、12月20日から1月末まで、南極の夏に限られている。例外的な寒さに見舞われた日本に比べたら関東地方と比較しても暖かいくらいだった。それでも、ひとたび風が吹けば風速15m、20mはざらで、建築資材が飛んでくるような気象条件になる。ヘリが飛べずに現地で数日停滞という事態も珍しくなかった。風がない晴天なら、Tシャツでも過ごせるくらいだが、ひとたび風が吹くと、体感温度が下がり、体温維持にも気を遣う必要がでる。その環境の変動の激しさが南極の過酷さの一因でもある。

 

 訓練のときに、ハンドベアリングコンパスでの雪上での直進練習を行った。また夏の訓練ではここ10年ほどオリエンテーリングが行われている。過酷な自然環境の中にいくのだから、地図読み、ナヴィゲーションは必須なのだろうと思っていたが、現地に行ってみると意外とそうでもない。隊員にはコンパスが貸与されるが、そのコンパスを使った隊員は数えるほどだろう。しかも、使ったのは気象情報収集のときの風向を見るため、という隊員も少なくないはずだ。

 

 夏の南極では野外調査の際に利用できる移動手段はほぼヘリに限られる。砕氷艦しらせ、ないしは昭和基地からヘリで直接調査地に乗りつける。現地で歩く距離もせいぜい数百メートルだ。中には地質調査や国土地理院のように1km程度移動する観測チームもいるが、ほとんどは見える範囲でしか移動しない。おまけに現在ではほぼ全ての調査チームがGPSを持っており、地図読みができる必要性は全くないのだ。

 

 とは言え、甘く見ることはできない。同行した地理院の職員の方は短距離だからと地図もGPSも参照しなかったら一瞬道を見失いかけたという。南極には森はないので、見通しはよい。一方で露岩地域は氷食地形で地形が複雑である。地図読みも難しい。ブリザードはもちろんだが、視程が下がればロストポジションが発生しても不思議はない。

 

 こんな状況下で、隊員に如何にしてナヴィゲーションの重要さを気づいてもらい、また地図に親しんでもらうかというのは、意外とチャレンジなのかもしれない。地図の持つ、プランニング、コミュニケーション促進機能にも目を向ける必要がありそうだ。

 

注1:同行者とは、正式の隊員ではないが、自らの負担により隊員とほぼ同等の活動を許された参加者を指す。今回の同行に関して、本法人より研究助成を得ました。本法人を支えて下さる皆さんにお礼申し上げます。

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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