コラム130:ゴールデンウィークは東京へ

 珍しく何の行事も入れていないゴールデンウィークオリエンテーリングの研修の準備で草津に行こうかとも思っていたのだが、わざわざ混んでいる時期に行楽地に出かけることもないだろう。ひょっとして東京なら空いている?ニュースウォッチ9の桑子アナも「東京は水色(平常時の人出より人出が少ない)」「最高は福井の80倍」と、行楽地の混雑情報を教えてくれた。

 

 明治時代の地形図に、オリエンテーリングのコースを組んで東京の城南地区を走る。目的地は今でも分かるはずの場所として大きな神社や仏閣、町歩き案内本に載っている史蹟や庚申塔などを選ぶ。明治初期には山手線も通っていなかったから、渋谷や池袋は狐や狸の出そうな農村だ。明治中期にはさすがにこのエリアは市街化されたが、そこから城南地区にかけては、里山と耕作地の田園が広がっ

ている。そんな風景を描写する明治期の地図を手にして目的地に向かって走ると、頭の中は明治の郊外の風景のイメージで満たされ、その風景の中にある特徴物を求めてナヴィゲーションしているうちに、次第に暗渠は「春の小川」に変わり、斜面緑地は武蔵野の雑木林に頭の中で変換されてしまう。

 

 明治31年作国木田独歩の「武蔵野」に「夕暮れに独り風吹く野に立てば、天外の富士近く、国境をめぐる連山地平線上に黒し」と描写したのは、さしづめ今のNHK放送センターのあたりであろう。渋谷周辺を散歩した独歩は、鳥の羽音、風のそよぐ音、叢の陰、林の奥にすだく虫の音、空車荷車が野路を横切る音、騎兵演習の斥候か、あるいは夫婦で遠乗りにきた外国人の馬の蹄が落葉をけ散らす音

を聞く。そんな風景が自分の頭の中にも知らず知らずのうちに蘇ってくる。

 

 古地図でのオリエンテーリング、ノスタルジアに浸れるだけではない。ナヴィゲーションスポーツのスキルの本質は、地図から現地と対応可能な必要最小限の情報を読み取ること、そして、本来は異なる情報量を持つ地図と現地を対応し、「ここだ!」と自分を納得させることにある。建物も道の多くの今とは異なる古地図では、もともと現地と対応できる情報は限られている。どの情報が利用でき

るかという視点で地図情報を読み取る。対応できる情報を風景の中から見つける。そのプロセスが地形や些細な傾斜の変化などに敏感にさせてくれる。ナヴィゲーションのトレーニングとしても得がたいチャンスなのだ。

 

 もう一日は、玉川上水の分水である品川用水を、武蔵境から大井町まで走った。電車で移動しても優に50分は越える距離である。25kmの距離を自分の足で走ってみると、江戸時代にこれだけの土木工事を成し遂げた技術力や財力、企画力が偲ばれる。ところどころに当時の水神や庚申塔、水車そのものはなくなっているが、その痕跡を示す立て看板などがあってあきない。

 

今年のゴールデンウィークは終わってしまったが、秋のシルバーウィークや来年のゴールデンウィークは、古地図を持って東京散策!はいかがだろう。ついでに村尾嘉陵の「東京近郊道しるべ」(江戸期の武家のお散歩日誌)や国木田独歩の「武蔵野」を読んでおくと、さらに頭が妄想モードになる。いつもよりちょっとばかりのんびりした東京で、お金、時間、エネルギーともに優しい田園散策体験が味わえる。

下北沢南部の北沢用水沿いにある森巌寺。山門の左にある石柱には、「東:あをやま(青山)、南:ゆうてんじ(祐天寺)、めくろふとう(目黒不動)」とある。

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