コラム121:今、山のグレーディングが熱い!

 6月11日に日本山岳協会の指導委員会に依頼されて、山のグレーディングについて話をすることになった。グレーディングの開発者ではないが、熱烈な支援者として、自分自身も勉強してみることにした。そして勉強だけでなく、他の国に同様のシステムと比較したり、実際の道迷いのプロセスと対 比させてその妥当性を考えるなど、ちょっと研究者っぽいこともしてみた。

 

 山のグレーディングは初めてその存在を知った時には、正直衝撃を受けた。登山や山歩きが盛んな国では登山道をランク分けしているのは知っていたが、せいぜい3-5段階だ。それがいきなり体力10段階×技術5段階の50マトリクスによるグレード化。精緻な日本の物作りの原点を見るかのような緻密さではないか。「山のグレーディングは、新幹線に並んで日本が世界に誇る安全システム」この評価だってあながち誇張ではない。

 

 体力度については、鹿屋体育大学の山本先生の長年にわたる研究成果に基づくものだけに、運動生理学の研究と実践に基づいたかなり信頼性と妥当性の高い指標だと考えられる。おまけに、山本先生はマイペース登高能力テストという、登山者側の評価指標まで作ってしまった。グレードによって登山道で必要な体力が分かる。そしてマイペース登高能力テストによって自分の体力が対応する形で分かるのだ。ただ両者には若干のずれがある。テストの方は、無理なく上れるエネルギー消費率(メッツ)が示されているのに対して、グレーディングの体力度は消費率と時間との積算である。このあたりは十分に啓発が必要なところだろう。

 

 一方で技術度の指標にはまだ改善の余地があるように思う。専門である道迷いについて考えてみると、グレーディングに示される(地図読み能力が)「必要」と「望ましい」の違いが曖昧である。またランクBの「わかりにくい」とC「道標不十分」、D「道標限定的」の区分もわかりにくい。たぶん道迷いのプロセスと関連づけ、「道間違い」→「(ほんとうの意味での道(上での)迷い」→「ルート(道)はずし」に対応するスキルと位置づけるとすっきりするだろう。

 

 「遭難減少のための安全システム」と考えれば、さらに考えなければならない点がある。登山者に活用されるほどにシンプルか、全国に広げる上で信頼性(どこでも同じに評価されるか)は十分か、自己責任やパターナリズムとの整理など、解決すべき論点は多い。先日読図講習で参加者11人に聞いたら、知っている人は0人だった。類似の報告はほかでも聞く。登山者への周知も課題だが、活用しようというモティベーション向上も鍵である。

 

 課題は多いが、安全システムの中核になりえる資質を持ったグレーディングだからこそ、建設的な論点が多く出てくるのだ。そう考えると、指導委員会で話題提供した後、登山を支える指導員たちと議論できるのが楽しみに思える。

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