コラム110:地図の抽象性

 昨年10月に行われるオリエンテーリン グ大会のために、地図作成プロ フェッショナルのNさんに地図作成を依頼した。オリエンテーリングでは、一般的に自治体が発行する都市計画図等の大縮尺の原図を 元に現地調査を行い、独自の図式に従って地図が作られる。富士山麓のように緩やかで微地形に富んだ場所では、これまでの原図は森に覆われ た大地を空中から撮影した写真によって図化するので、細かい地形は表現されない。従って、原図の等高線を大幅に修正して、その微地形を表 現することになる。今回利用したのは、詳細なレーザー測量から作った等高線原図と赤色立体図だった。調査はかなり効率的に進んだ。


 オリエンテーリングでは通常5mの等高線間隔が採用されるが、緩斜面の微地形を表現するためには、2.5mの等高線間隔がよいのではないかとNさ んが指摘してきた。確かに2.5mで作成したものは、圧倒的に地形が豊かに表現されている(図参照)。もちろん、豊かな表現の方がよいに決まっ ているが、コストを考えると、手間がかかりすぎるのではないだろうか?Nさんの答えは一見意外だった。実は2.5mの 方が手間がかからないというのだ。今回、原図として赤色立体とレーザー測量による1m間隔の等高線の原図が用意されていた。2.5mの 等高線間隔なら、そこから間引くだけで描くべき地形を表現することができる。一方5mの等高線間隔では、等高線がスカスカになりすぎるので、表現すべき地形上の特徴を選び取り、それがスカスカの 等高線で最大限表現されるよう、等高線に修正を加える必要がある。だから通常の地図作成とは異なり5mより2.5mの 方が楽なのだろう。


 彼から提供された2.5mと5mの地図を見比べた時、5mの 方が面白そう、とも直感した。2.5mの地図では、傾斜の緩急によって生まれた土地の形が、そのまま3Dで 見て取れる。他方、5m等高線にも地形の要所は描かれている。だが、隙間の多いその等高線から土地の形を読み取るには、かなりのイ メージ能力とそれを支える地形の構造に関する経験的知識が不可欠だ。5mでは地図の抽象度が上がっているので、具体的なイメージを作成するのに多大な努力が必要なのだ。それは調査者 が、現物に近い赤色立体図と詳細な標高データから5mという抽象度の高い地図を作成により多くの努力を要求されるのとは裏返しである。


 詳細な情報があるとき、抽象度が高い地図を作ることは調査者に情報の取捨選択という認知能力を課し、同時に そこから現実を復元する時にも利用者にも情報の補完という認知能力を課す。改めて地図の抽象度が利用者につきつける課題を実感した。

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