教育心理学の名著に「子どもはなぜつまづくのか?」という本があるが、読図を教えていると、大人ですら様々なところで躓く。認知能力も十全であり、学習についての経験も充分にあり、しかもモティベーションのある大人でもその可能性は決して低くない。この7年間のべ300人以上の講習をしてきたが、講習をするたびにそのことを痛感する。
とりわけ躓きが多いのが、コンパス利用(整置)である。コンパス直進はプレートの操作や何段階かのステップがあるので、それなりに難しいことはわかるが、ワンステップでできる整置の習得がこれほど難しいのは、講習会をして始めて気づいた事実だった。
4月から始まった大人の休日倶楽部の第二回目が「コンパスの使い方」で、高橋君の担当会だったが、時間があるので見に行った。講師をしていると、一人一人の受講者になかなか声をかけにくい。傍観者として見ていると、躓きのポイントがどのようなところにあるか、よりはっきりと見えてくる。
躓きは概念的なものと操作的なものに大別される。
概念的な躓きの代表的な例としては、地図の上にコンパスを載せるが、整置しようとして一生懸命コンパスのリングを回してしまうものだ。これは整置を何のためにやるのかという目的がうまく伝わっていないことに大きな原因があるように思う。同時にプレートやリングという整置に必要のない機能がついていることで、ついそれを動かしたくなってしまうという注意の問題もあるように思う。
操作的な躓きとしては、コンパスを現在地の上に載せてしまって整置するので、せっかく整置した後、周囲の地図が読み取れないといった問題や、磁北線と確実に平行できていないといった問題が発生している。後者は、アウトドアで地図とコンパスを持って確実に操作するための手・指の使い方が意外と難しいという問題が大きいと思われるが、どちらも整置の目的は何か、そしてそのために要求される精度はどの程度かといった概念的な問題ともつながっている。
解決には反復学習(スキルとしての定着)、帰納的学習(反復練習をしながら、そこから実践に必要な手順の具体的様相を発見していくこと)、そして概念的学習(いわゆる座学だ)がいずれも必要なのだろう。