コラム69 GPS vs 地図読み

6月の上旬に、富山の大日岳周辺の調査山行を行なった。その帰路、厚い藪に覆われた複雑に分岐する尾根を、登山研修所の専門員の方と地元のガイド組合長の方と一緒に下った。冬場の研修場所なので、彼らも冬には入ったことがあるが、夏場は登山道もなく、彼らも入ったことはない。

 

基本的には彼らがGPSや記憶を頼りにルートを先導してくれるが、測位の任務が終わった後、僕も地図を読むことにした。それは図らずも、GPSと読図・コンパスの力比べとなった。

 

背丈を超える藪の中、しかも霧のため視界は200m以下で、遠望は利かない。しかし、高度計とコンパスがあれば、地形の特徴的な部分を地図から読み取り位置を確認し、進路を保つことはできる。一見地図には明確な特徴がなくても、尾根の方向の変化や地図では隠れているピークも、等高線を丁寧に読めば読み取ることができる。さらに高度計を使えば、かなりの精度で位置を確認できる。ところどころで現在地をGPSで確認したが、ほぼピンポイントで現在地は把握できていた。

 

GPSの弱点もよく分かった。GPSで現在地を把握しているはずなのだが、特徴のない分岐で方向が変わる時には、彼らはそれまでの尾根の方向や動きやすさによって、間違えた方向に進んでしまうことがある。もちろん、現在地は常に捕捉できているので、少し進むとおかしいと気づく。しかし、藪で下り基調の尾根だと、それはかなりのロスにつながる。

 

HさんのGPSには10m等高線のデータが入っている。基本的には情報量が地形図と変わらないはずだが、トレースの過程でほんの少しだけ等高線が丸められているせいなのか、地形図に比べて隠れたピークを読み取りずらい。電子コンパスはあっても、ちょっとした反応の遅れが、方向に対する厳密な意識を阻害しているのかもしれない。

 

もちろん、読図にも弱点がある。地形が曖昧であったり、隠れたピークや高低差が多重に現れると、地図読みだけでは自信がどんどん低下する。それに対してGPSでは誤差が累積することはない。また、地図読みでは不用意な曲線的な動きを避けなければならないので、あえて藪を突っ切らなければならない場面も出てくる。

 

結局のところ、どちらが勝ち・負けという訳ではない。GPSだけでは不十分、読図もできないとダメだ。そうは言われているけれど、具体的にGPSがどんな場面に弱くて、それをどう補えばいいのか。今回の山行は、期せずしてそれを実践的に確認する場を与えてくれた。

 

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