コラム108:ナヴィゲーションのファンタジスタ

 9月下旬に行った古地図×地形萌えの東京探訪では、オリエンテーリングの日本代表選手をゲストとして招待した。大学院生の彼らは若いけれど、日本を代表するオリエンテーリング競技者である。一般の参加者に、彼らの優れたナヴィゲーション技術や、初見でどんなことを考えながらナヴィゲーションするのかを知って、参考にしてもらうために招いた。


 スタート前に、彼らに趣旨と古地図(迅速図)の特徴を簡単にレクチャーした。初めて見るに近い迅速図、地形と一部の古い道以外は現在とは全く違う地図内容、しかもどれが合っているか合っていないかが分からない中でのナヴィゲーションは、いくらナヴィゲーションの達人と言えども不安なものだろう。案の定、最初の1,2レッグでの彼らの動きはぎこちなかった。現代の正しい地図であれば、決して犯さない様なミスも犯した。そんな様子を見ていると、最初から古地図のナヴィゲーションに比較的順応していた自分自身が、「神社は尾根の先端にある」とか「神社は遠くから森として分かる」といった、地図からは得られない一般的な情報を活用してナヴィゲーションしていたのだということを思い知らされた。これは、たぶん私が大学時代に都市計画を学んでいたことと無縁ではないかもしれない。


 だが、彼らの真骨頂はその後にあった。数レッグ走ると、彼らは、チャレンジングなルートと安全なルートを使い分け始めた。地図上で何がよく分かり、どんな危険があるかを見抜いたからだ。後半には、自分がどんな情報を利用し、どんな意図でナヴィゲーションしているかも、他の参加者に解説しながら走るまでになった。彼らは、日々のオリエンテーリングの実践の中で、ナヴィゲーションに必要な、あるいは有用な情報は何か、に常に意識を向ける実践をしている。だからこそ、全く新しい情報環境の中でも、短時間で、使える情報とそうでない情報を峻別し、それを活用することができたのだろう。


 正直、その順応性の高さは、期待以上だった。最初から最後までうまくいくよりも、もっと有益なものを一般の参加者に見てもらうことができた。そして、「オリエンテーリング競技者はナヴィゲーションのファンタジスタ」という持論を確認することができたことも、僕にとっては収穫だった。

(遠くに見えるマンションの様子から、丘の存在を知ることができることを説明している結城克哉選手) 

 

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