【M-nop letter+】2024年3月号

■ご挨拶■

 有度山トレイル三昧の疲れから回復しようと、2月は基本的にイベントを入れませんでした。唯一の実技を伴う行事が、10-12日に行われた野外活動指導者研修(朝霧野外活動センター主催)でした。このイベントは名前のとおり野外活動全般の指導者養成事業ですが、2泊3日の前半がナヴィゲーションパート、後半がリスクマネジメントパートとなっています。このふたつのテーマは、講師陣の専門性から適当にくっつけたように思われがちですが、私の中ではイコールです。アウトドアナヴィゲーションとは、リスクマネジメントそのものなのです。

 

 極端な例として、ミクロネシアの航海民族が島影一つ見えない海原で、GPSはおろか近代的な意味での海図さえない状況で、どのようにナヴィゲーションするかを考えてみましょう。環礁の西端にある目的地に向かう際、彼らは直接ではなく、環礁が延びている少し東を目指します。

ミクロネシアの海洋民族のナヴィゲーション。オリエンテーリングで使われているエイミングオフというプランニングの工夫が見られる。
ミクロネシアの海洋民族のナヴィゲーション。オリエンテーリングで使われているエイミングオフというプランニングの工夫が見られる。

この付近には、西よりの海流が流れています。もし進行方向がずれてしまえば、目的地の環礁を通りすぎ、島のない海域に出てしまいます。そうなれば死が待っているかもしれません。しかし、最初から東にそらせば、環礁のどこかに行き着き、そして、環礁を西にたどることで、目的地に到達できます。まっすぐ進めないかもしれない(つまりこれがリスクです)ことを見越して、それに対応できるプランでナヴィゲーションしているのです。

 

 実はオリエンテーリングでも、同じような考えからエイミングオフというテクニックが一般的に使われています。自然の中で人の能力でナヴィゲーションを行うことによるリスク回避が重要だという点は、大海原でも森の中でも変わらないのです。

 

 研修会では、そのことを実感してもらう演習を取り入れました。今は廃品になったフェースシールドを活用し、足下だけが見えるようにします。その状態で体育館内で目的地に見立てたコーンを目指すことで、思い通りに進めないリスクを実感し、それにどう対応するかを考えてもらったのです。

野外活動指導者研修会で実施したブラインド・ナヴィゲーション。限られた視界で発生する不確実性にどう対応するかは、大自然の中の中のナヴィゲーションでもキーポイント。
野外活動指導者研修会で実施したブラインド・ナヴィゲーション。限られた視界で発生する不確実性にどう対応するかは、大自然の中の中のナヴィゲーションでもキーポイント。

 リスクをどうコントロールするか?その発想から捉えるとナヴィゲーション技術についても、より進んだ理解に到達できます。次回は、そんな観点から行ったオンライン研修をご紹介します!

■現在・今後の活動■

当法人は、ナヴィゲーションスポーツの普及やアウトドアの安全のために、イベント、講習会の開催や大会への技術サポートを行っています。今後は、以下の行事を開催、協力していきます。また、村越が関係する他団体の行事も掲載しました。

 

以下のうち「有度山トレイル三昧」ではお手伝いいただけるスタッフの方を募集しています。特にスキル・知識は問いません。

また、お手伝いではなく、運営や指導の勉強をしたい方も実費での参加を歓迎するイベントもあります。お問い合わせください。

【主催事業】

  • 静岡大学公開講座(共催)初級編(2024年12月8日)
    静岡大学と共催で実施される人気の講座。静岡の里山を歩きながら、読図の基礎を学びます。希望者には、日本オリエンテーリング協会によるナヴィゲーション検定ブロンズレベルを認定します。詳細は年度が替わりましたらお知らせします。
     
  • 静岡大学公開講座(共催)中級編(2025年3月8日)
    静岡大学と共催で実施される人気の講座。静岡の里山をハイキング形式で歩きながら、読図の実践力を高めます。希望者は翌日の検定に合格することで、日本オリエンテーリング協会によるナヴィゲーション検定シルバーレベルを認定します。詳細は年度が替わりましたらお知らせします。

  • 有度山トレイル三昧
    トレイルランニングミニレース(静岡市清水区、2025年1月25日)
    ロゲイニング(静岡市駿河区、2025年1月26日)
    当法人のフラッグシップイベントです!来年度は清水地区を中心にコース設定予定。

【他団体による主催(協力・村越の講師参加等)】

  • Shin Murakoshi: 50 years with Orienteering
    村越のオリエンテーリング生活50周年を記念したオンライントーク、2月上旬ですでに3回が終了しました。3月19日には、オリエンテーリングに欠かせない地図づくりとイベントプロデュースの話を致します。4月には「アウトドア界への挑戦」、「番外編:古地図ナヴィゲーションの世界」をお送りします。
    詳しくは下記URLをご覧ください。
    https://www.orienteering.or.jp/joa-about/online/murakoshi_o_50th/
  • Shin Murakoshi: 50 years with Orienteering
    古地図ナヴィゲーションツアー等今後、3イベントを企画しています。
    2024年3月16日:小手指~東村山を、古地図で巡る。
    2024年4月29日:東京城南地区での古地図スコアイベント。
    2024年9月:飯能でのマウンテンオリエンテーリング。
    詳しくは、TEAM阿闍梨サイト: https://www.teamajari.com/event/shinmurakoshi50/

■最近の活動から■

 フェースブックには、ちょうどX年前の自分の投稿をレビューできる機能があるのをご存じの方も多いと思います。2月末にレビューされていたのは古地図ツアーの投稿でした。このブログでも時々紹介する古地図によるナヴィゲーションツアーはちょうど10年前の2014年の2月14日に行っていました。

 

 当時、もっと気軽のナヴィゲーションの練習ができないかと考えていました。東京の市街地で地図読みの練習ができないかを模索していました。ちょうどその頃、日本地図センターがIpadのアプリ「東京時層地図」を発売したのです。このアプリは、明治初期から現代に至る7時点での地図を対照させながら見ることのできるものです。

東京時層地図の画面。右の現代地図では隠されている地形が見て取れる。
東京時層地図の画面。右の現代地図では隠されている地形が見て取れる。

示したのは世田谷区下馬。中央を流れる川の周りには河岸段丘があり、神社はその段丘崖の上に立地していることが理解出来ますが、右の現代地図では見て取ることはできません。

 

 古地図を使えば、地形が読み取れる。それを使ったナヴィゲーションができるのではないだろうか!そう閃いたのが現在の古地図イベントやツアーにつながっています。

古地図を使って巡ると、こうした江戸期の史跡(写真は清瀬市にある中里の富士塚)も、殊更赴きが深い
古地図を使って巡ると、こうした江戸期の史跡(写真は清瀬市にある中里の富士塚)も、殊更赴きが深い

 古地図でナヴィゲーションをすることでいろいろな発見がありました。第一に、ナヴィゲーションのために地形と地図を頭の中で対応させることで、いつの間にか里山を走っているかのような妄想に浸れること、第二に、日常的な街歩きでも、「あの斜面は段丘崖がある」「この低地の連なりはかつての川の名残だろう」といった目で地形を見るようになれること、さらには、「ご挨拶」でも触れたように、現在とは異なっているが故に発生する不確実性にどう対応するかというリスクマネジメントが重要なのだということです。自分自身がそれを改めて理解できただけでなく、ツアーを通じて多くの方にも実体験していただくことができました。

 

 4月29日には、久しぶりに東京での古地図イベントを開催します。実はこの日は私自身のオリエンテーリング生活50周年の節目の日。50年を振り返りながら、東京の100年も振り返って見たいと思います。

東京の三軒茶屋も古地図(明治後期)ならこのとおり。牧歌的な田園風景が広がっている。
東京の三軒茶屋も古地図(明治後期)ならこのとおり。牧歌的な田園風景が広がっている。

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

活動をサポートして下さる方を募集しています

2015年3月のシンポジウムのプログラムと村越の発表資料を掲載しております。

初心者に最適なコンパス、マイクロレーサー