地震と台風に翻弄された8月が終わりました。臨時情報の発令は防災を研究テーマとする私にとっては、社会がどう反応するかを知る興味深い機会だったのですが、残念なことに、久しぶりの北欧遠征をしていました。
そう、本当に久しぶりでした。OMMやロゲイニングでは、コロナ禍前はほぼ毎年のようにヨーロッパにでかけていましたが、オリエンテーリングでの遠征は2010年以来。フィンランドに至っては2001年の世界選手権出場以来の遠征でした。
ターゲットの大会はワールドマスターズオリエンテーリング選手権(WMOC)、毎年開催される35歳以上のアスリートのための世界選手権です。35歳以上だろうがなんだろうが、世界チャンピオンには変わりありません。実際、オリエンテーリングの世界ではかつての世界チャンピオンや世界選手権上位の常連も出場しており、今年のM65では、91年95年に世界チャンピオンになったヨルゲン・モルテンソンも参加し、65歳以上の世界チャンピオンに返り咲いていました。
参加して、改めて(北欧での)オリエンテーリングの面白さ、そして競技のために全力の尽くせる時間の喜びを再認識しました。そして最高齢クラスはW95。97歳のアスリートは誰にも負けない声援を受けながらフィニッシュレーンを走って(!)いた姿が印象的でした。長生きすればするほどチャンピオンになる可能性が高まる!
来年のマスターズは食文化の国スペイン、再来年はポーランド、そして2027年は日本開催です。皆さんも世界チャンピオンを目指してみませんか?
※ 前号から以下のイベントを追加、変更しました。
当法人は、ナヴィゲーションスポーツの普及やアウトドアの安全のために、イベント、講習会の開催や大会への技術サポートを行っています。今後は、以下の行事を開催、協力していきます。また、村越が関係する他団体の行事も掲載しました。
以下で紹介する事業のうち、当法人主催事業の「有度山トレイル三昧」、朝霧野外活動センター主催の「初めてのナヴィゲーション」「オリエンテーリングin朝霧」ではお手伝いいただけるスタッフの方を募集しています。
また、お手伝いではなく、運営や指導の勉強をしたい方も実費での参加を歓迎するイベントもあります。お問い合わせください。
挨拶でも触れたマスターズについて詳しくご紹介しましょう。
1983年にフィンランドでベテランワールドカップの名称でスタートしたこの大会は1998年にワールドマスターズ選手権と改称され、今日に至っています。オリエンテーリングの世界では、昔から5歳刻みの年齢毎のカテゴリーが設定され、同年代と競い合う大会にはなじみがありましたが、それに年代ごとの世界チャンピオンという付加価値が加わったのです。
私もベテランワールドカップの時代である1997年に一度参加しました。この年は「フル代表」とも言える普通の世界選手権にも参加し、ロング、ミドルともに予選を通過した絶好調の年でした。ベテランワールドカップでも5位となり、俄然世界チャンピオンが現実のものとして見えてきました。
5歳刻みでカテゴリーが決まるこの大会、0歳と5歳の年が狙い目で、私にとっては0年と5年となります。2020年の60歳の年に狙いを定めて、エントリーもしたし、南極でのトレーニング(2018年の12月2020年の3月まで南極観測での越冬を予定)まで考えていました。それがよもやのコロナ禍。64歳になる今年はノーチャンスではあるものの、来年のチャンスに向けての実力試しという位置づけで、今年のフィンランドに遠征したのです。
現在マスターズでは、スプリントの予選・決勝、フォレストの予選とミドル決勝、ロング決勝が行われます。ヨーロッパで開催される際の参加者は3000人から4000人。MW60~MW65では概ね各クラス400人くらいが参加します。従って予選は5ヒート程度に分かれ、各ヒート約80人中16人がA決勝に進み、次の16人がB決勝・・・となり、M60はE決勝まで、M65にいたってはF決勝まであります。また、フォレストではミドルの決勝で入れ替えがあり、A決勝で下位12人になるとロング決勝はBに「降格」という厳しさです。私は、事前の地図読み練習とかろうじて一ヶ月間できたスピード練習も奏功して、スプリント、フォレストともにA決勝を走ることができました。おかげで、北欧でのオリエンテーリングをたっぷり楽しむことができました。
もちろん、マスターズの楽しみは勝つことだけではありません。用意される世界最高峰の地図で世界各地のテレインで毎年走ることができることは、マスターズ年代のオリエンティアにとっては、得がたい楽しみです。また日本人の同年代と一緒の遠征は、同窓会的楽しみでもあります。私のように、毎年のように世界選手権に出ていた人間には、当時知り合ったトップ選手の幾人かは今もオリエンテーリングを続けています。それを見ることは、励みにもなります。年配のオリエンティアにとっての「楽しい同窓会」、マスターズはそういう大会なのです。
最後に北欧でのオリエンテーリングについて少し説明します。北欧と総称されますが、オリエンテーリング発祥地のスカンジナビア(ノルウェーとスウェーデン)に加えてフィンランドは、いずれも氷河の氷食作用によって形成されたテレインで、氷河に削られることで出来た、比較的平坦で、しかし岩盤が浸食され、その残存物である岩や岩がけを特徴とするオリエンテーリングに格好の地形なのです。その中で大事なことは地図から読みとるだけでなく、不要な情報は捨てること、本当に重要で分かる情報を選んで使っていくことなのです。
出発前にほとんど練習できなかった私は、公表された現地の地図を使い、ほぼ毎日のように仮想地図読みをしながらのランニングを行ってきました。結果、23年ぶりのフィンランドでのオリエンテーリングながら、複雑な地図読みに順応することができましたし、結果的にも手応えのあるものとなりました。