【M-nop letter+】2025年05月号

ただいま富士山麓ロゲイニング2025の大会準備中です。

エントリーも受付中、富士山麓を満喫できる村越おススメの大会です、是非ご興味ある方いらっしゃいましたらご紹介ください!

今回のブログは簡易版でお届けいたします。

【目次】

■現在・今後の活動■

詳細は「現在・今後の活動のご紹介 」からご覧いただけます。

<主催事業>

  • 富士山麓12時間ロゲイニング【スタッフ募集】
  • 有度山トレイル三昧2026【スタッフ募集】

<他団体による主催(M-nop協力・村越の講師参加等)>

  • 初めてのナヴィゲーション
  • オリエンテーリングin朝霧

■最近の活動から■

【登山計画は何のため】

 寡聞にして知らなかったのですが、長野県は毎年山岳遭難safetybookという安全登山のための冊子を出しています。日本一の山岳県は同時に日本一の山岳遭難県でもあるのです。大きな登山用品店で無料配布するそうですから、チャンスがあればぜひ1部手に入れることをお勧めします。無料配布とは思えない豪華執筆陣が、体力トレーニング、気象、登山計画といった登山に関わる様々な側面から気合いのこもった記事を執筆しています。私も登山計画の原稿を依頼されました。

 依頼内容は、「届を前提としない登山計画」というものでした。山岳遭難が発生すると、判で押したように、「登山届は出していなかった」という新聞記事が掲載されることがあります。しかし、考えてみれば、登山届が役立つのは遭難した後で、遭難自体の抑止にはなりません。日本の大新聞の中には、登山届と登山計画を混同しているとしか思えない記事を掲載するものさえあります。そんな中で行政自ら、「届を前提としない」登山計画の作り方の記事を載せようというのです。本気度が伝わってくる依頼に、一も二もなく受諾しました。

 

 そこで問題。登山計画書を書くことはどんな意義があるのでしょうか。主要なものを3つ挙げてください。あなたなら何を挙げるでしょうか?

 

 私が、このsafetybookで書いたものは、以下の5項目でした。

  1. メンタルシミュレーションとしての計画
    計画を立てるとは頭の中で行程をなぞることです。それは登山の心的シミュレーションとなります。シミュレーションの過程で、ルートや各区間にどのくらいの時間が掛かるか、あるいはルート上にどんなリスクがあるかに気付くことができるでしょう。地形図などのような詳細な地図は、そのための重要な情報源になります。

  2. 情報共有のツール
    計画を立てると、パーティー全員が登山の内容を把握したり共有できたりします。これは一人一人が確実な準備をし、心構えを持つことに役立ちます。単独登山であっても、計画は「未来の自分」に向けての情報共有と解釈できます。

  3. 現場でリスク管理を確実にするためのツール
    計画作成でルートをシミュレーションしますから、そこからの変動に気づき易くなります。その変動とは多くの場合リスクなのです。「計画の時程から遅れている、だから暗くなる前に下山できるか微妙」ということが分かるのも、計画があればこそです。リスクに気づくことで、それを管理するための準備ができます。

  4. ダメージコントロールのツール
    計画通りにいかなければダメージが発生します。仮想の「もし・・・になったら」と考えることで、ダメージを予測し、予めコントロールすることもできます。たとえば、「もし体力的にきつかったら・・・」「もし雨だったら」と仮想することで、エスケープルートを想定したり、適切な雨具を準備することでダメージが防げます。ダメージは現場で防ぐものですが、事前の準備がなければこれらのトラブルに対応できません。①のシミュレーションを通してダメージの可能性を考え、それをコントロールのための装備が準備できるのです。

  5. 反省のベースとして
    計画は反省のベースにもなります。装備に過不足はなかったか、行程は思い通り消化することができたのか。反省時に計画を参照することが、よりよい次の計画への礎となります。

皆さんが考えたのはどんな計画の意義だったでしょうか?

 

シミュレーションをするためには知識と考え方が必要です。山のリスクや自分自身について知るとともに、リスクをどのような視点で考えるかが重要です。

  1. 山のリスクを知る
     第一に、山のリスクについての知識は不可欠です。知らなかったら避けようがないですから。警察庁が毎年初夏に公表している(前々年までのものは警察庁のウェブでも見られる)「山岳遭難の概況」にある遭難態様のリストが参考になります。
     リスクを知るとは、単に「道迷い遭難」がある、というだけでなく、道迷い遭難がどういう性質を持ったリスクかを知ることも意味します。一般にリスクは損害の程度(致命的かどうか)と確率で評価されますが。対応を考える時、リスクが制御可能かという視点が役立ちます。たとえば、落雷は警報・注意報下では致命的なリスクがいきなり襲ってくるため、ダメージを制御できません(急襲性リスク)。一方、低体温症は寒気や震えといった兆候を伴って進行し、なおかつ防寒具などを持つことで制御可能です(漸進性リスク)。リスクが漸進性/急襲性かを知しれば、その場で対応すればよいのか、事前に避けるべきかも分かります。

  2. リスク累加要因という考え方
     山のリスクは多種多様です。それらを全て避けようとすれば登山をやめるしかありません。むしろ、ある程度のリスクは登山の達成感にもつながります。リスクを受け入れて登山をする以上、リスクを知るだけでなく、どんな時にリスクが高まるかを知ることが不可欠です。リスクが高まる場面には必ずその要因があります(これをリスク累加要因と呼びます)。それを知ることで、事前に対応を考えることも可能になります。
     たとえば、熱中症であれば高温時や無理な行程を歩くときに発生しやすいでしょう。転倒であれば路面が不整な場合や傾斜が急な場所で起こりやすいでしょう。また、岩場では転倒した時にダメージが大きくなりがちです。あるいは夏山の早出を心がけているあなたも、車の渋滞で出発が遅れてリスクが累加するかもしれません。それらのリスク累加要因によってどのくらいリスクが高くなるでしょうか?またそれは許容範囲でしょうか?それが行動のガイドラインになります。

 計画に対する一般的イメージは、そのとおり実現するもの、ではないでしょうか?しかし、計画はむしろリスクマネジメントのツールと考えた方が良いのです。リスクとは変動による損害の別名です。山での行動をこの範囲の変動に収める。あるいは収めうる。そのための行動選択肢を確保する。そのプロセスが計画作りに他なりません。

 実はこのような考え方は、認知心理学の現代的一派の考え方でもありますが、同時に私が長年のオリエンテーリングの経験で学んだことでもありました。ここではリスク=(身体的な)危険という視点で書きましたが、次回は同じ考え方をナヴィゲーションで成功するためにという視点で書いてみようと思います。

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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