【M-nop letter+】2025年08月号

【目次】

■ご挨拶■

  早くも8月に入りました。暑い毎日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。私にとって最後の前学期が終わりました。約100人の学生に毎週授業を行い、小レポートを行う教職の授業は私にとっても教育実践を考えるいい機会になっている半面、相当の負荷ではありました。特にコロナ禍では、対面でのフィードバックができないため、提出されたレポート全てにコメントを付けて返そうとしたところ、最初の数回で腱鞘炎になりかねないことがわかり、なんとか奇数・偶数交互にレポートへのコメントを行なって乗りきったことも、今となってはよい思い出です。それらの授業もようやく終わりを告げました。

 

 今年の夏休み最大のイベントは8月8日からスペインで開催されるマスターズです。5歳刻みにカテゴリーが分かれるマスターズでは、X0歳、X5歳が最大のチャンス。1960年生まれの私にとって、今年は5年に1回のチャンスということになります。

 

 そのチャンスに向けて、昨年のマスターズにはノーチャンスを承知で参加しました(もっともフィンランドでの開催だったので、それだけでも出場の意義はありましたが)。また、フィンランドでの大会の後は、スペインに2日ばかりの状況視察にも出かけました。フィンランドの大会では、次年度に移るM65クラスのトップとの差を見積もることができましたし、何よりスプリントでの可能性を発見することができました。また、スペインでは暑熱順応と現地での暑さ対策の重要性を、身を以て知ることもできました。

 

 この1年は、45歳ごろまで出場していた世界選手権に勝るとも劣らない準備の期間を、20年ぶりに過ごしました。テキトーというのは当たらないにしても、思えばあの頃はまだまだ無自覚に練習していた!また、あのころなら、故障気味でスピード練習ができなければ悶々としていたでしょうけれど、今なら、オリエンテーリングに必要なのはオフトレイルや傾斜のある場所を早く走ること、階段練習にしよう!と割り切れます。歳を取ることのメリットはこんなところにもあると言えるでしょう。

 

 あるいは2021年から4年間、自分にとって新しいスポーツであったハンドボールに取り組んだことも大きかったと思います。当初は「アジリティーが身につけばいい」と思っていました。そのうち、ストレスフルな管理職生活の中での週1回の数少ないリフレッシュとなりました。さらに、「うまい人の中で、なかなかうまくなれない自分を受け入れること」「友好的ではない(決して敵対的でもないが)環境の中で積極的に振る舞うこと」「1プレー1プレーを考えながらやること」「限られた時間の中で上達することに頭を使うこと」、暑熱順応・・・改めて気づけたことはたくさんありました。

そのマスターズもいよいよ来週。20代のころと同じように、ドキドキしながら出発できそうなことにワクワクしています。

今年のマスターズはバルセロナから北に1時間くらいのGironaで開催。バルセロナといえばGaudiのサグラダファミリア教会だが、すでに見てしまっている・・・。
今年のマスターズはバルセロナから北に1時間くらいのGironaで開催。バルセロナといえばGaudiのサグラダファミリア教会だが、すでに見てしまっている・・・。

昨年のフィンランドと違って、食事がおいしくて安いのが嬉しい。ムール貝の焼き物に、オリーブを肴に赤ワイン。路上の居酒屋で南欧風に気取ってみた。
昨年のフィンランドと違って、食事がおいしくて安いのが嬉しい。ムール貝の焼き物に、オリーブを肴に赤ワイン。路上の居酒屋で南欧風に気取ってみた。

■現在・今後の活動■

詳細は「現在・今後の活動のご紹介 」からご覧いただけます。

<主催事業>

  • オンラインセミナー
    「登山・ナヴィゲーションスポーツのリスクとその対応:CTD理論に基づきリスク感受性を高める」new!
  • 静岡大学公開講座(登山者のための読図)
  • 有度山トレイル三昧2026【スタッフ募集】

<他団体による主催(M-nop協力・村越の講師参加等)>

  • AMO(朝霧マウンテンO)・初めてのナヴィゲーション
  • オリエンテーリングin朝霧
  • 国立登山研修所オンラインセミナー(2024年)オンライン動画アーカイブ

■最近の活動から■

【アウトドアのリスクに関わる2つの話題を紹介します】

1.全国山岳遭難対策協議会

 通称全山遭と呼ばれるスポーツ庁が主催する協議会で、毎年7月上旬に開催されます。6月下旬に警察庁が前年の登山における遭難概況を公表するので、それをベースにして山岳遭難対策団体(各県警察、消防、その他山岳関係団体)が一堂に介する協議会です。コロナ禍以後オンラインの併用があったり、警察・消防による遭難後の対策が主であったものが次第に予防にも軸足が移ったりして現在に至っています。今年は7月11日に行われました。

 

 今年の警察庁の発表で特筆すべきことの一つは、遭難数の前年比減少がコロナ禍の2020年以降久しぶりに起こったこと。もう一つは道迷い遭難の割合いが30.4%まで下がったことです。1990年代後半以降漸増を続ける山岳遭難の「主役」は道迷いでした。ここ10年ばかりは概ね30%台の後半を推移し、コロナ禍の2020年には43%を越えました。それが昨年に続き大きく下がったのです。これは、一方でGPSや地図アプリの普及により道迷いがようやく減少したことと、他方他の遭難が増えたことによると考えられます。

 

 地図アプリ等の普及は少なくとも5年以上前から進んでいたことを考えれば、実際に遭難が減るにはずいぶん時間が掛かったという印象です。しかも、別途の分析(後述)によればその恩恵を高齢者はまだ十分には受けていないようです。スマホの普及率が90%は優に越えていることを考えれば、スマホと地図アプリを道迷い遭難防止にどうつなげるかというナヴィゲーション界の新たな課題があると言えそうです。

 

 道迷い遭難率の減少にはもう一つの要因がありそうです。それは疲労や転倒による遭難が増えたことで、相対的に道迷いが減ったということです。転倒はすでに20.0%と、第二位の態様です。疲労も10%を越えています。これからの山岳遭難対策は、このような「どこにでも起こり得、重大な事故につながる可能性のある遭難」をどう防いでいくかが重要な焦点となりそうです。

 

 なお、当日は、国立登山研修所が研究者グループと協働して行った警察庁や長野県警提供の詳細データの分析結果の紹介も行われました。これが前述した「別途の分析」です。これらの分析は、山岳遭難の要因を把握する上での貴重な資料であり、公表後半月の間に20万閲覧を得たとのことです(通常、登山研修所の発表はバズっても1万程度)。

この資料は、以下のURLの下の方からpdfがダウンロードできます。

 

国立登山研修所:全国山岳遭難対策協議会告知のページ:

https://www.jpnsport.go.jp/tozanken/kyousai/tabid/76/Default.aspx

 

2.最近増えつつあるリスク

 今年になって熊の人的被害が増えています。つい10年前までは本州での熊による人的被害は限定的でしたが、すでに今年になって本州以南でも30件以上の人的被害があるようです。6月下旬には山形のさくらんぼ大会で競技開始後に熊目撃のため、競技が中止になるという事態も発生しました。対応記事を書く際に調べてみて驚いたことに、本州における人的被害は必ずしも漸増傾向にはないということでした。2023年にはそれまで最多の192件が報告されているものの、翌2024年には79件。今年はまだ半年(6月30日現在)ですが30件でした。死者も増えている傾向はありません。

 

 熊による被害増加の印象は、おそらくニュースに取り上げられる多さによると思われます。内容を見ると、市街地での被害増加がその背後にあるようです。確かにこれまでも中山間地では熊の被害は珍しくありません。しかし、野生動物のいないはずの市街地で発生するようになった、このことが人々の潜在的不安につながり、それが人的被害が増えた印象につながっているのかもしれません。

 

環境省:クマ類による人身被害速報値:https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/injury-qe.pdf

 

 近年増えているもう一つのアウトドアのリスクにSFTS(重症熱性血小板減少症候群)があります。これはマダニに媒介される感染症です。こちらも2020年以降、概ね年100件近い報告があり、10人程度の死者が出ています。これまでは西日本中心の発生でしたが、2025年4月30日現在、太平洋側では愛知、静岡、神奈川、東京で発生が報告され、北陸では福井、石川、富山まで発生が広がっており、更なる拡大が懸念されています。

 

 マダニは小さい動物ですから目視で防ぐことは難しく、長袖長ズボンで肌を露出しないこと、虫除けスプレーなどを使用するといった対応が推奨されています。オリエンテーリング等では長袖長ズボンというわけにはいかない季節です。競技後、なるべく早く皮膚を洗い流すことで対応します。特に、6日~2週間程度で発熱を中心に筋肉痛や関節痛、倦怠感などの症状がみられる時には、すぐに医師にかかって、SFTSの可能性があることも告げた上で確認することが必要です。

 

 なお、40歳代までの死亡例は2013年以降報告がなく、50-60歳代で散発し、70歳代から増え、死亡率は10%を超えています。本法人の会員の方は中高年が多く、注意すべきリスクの一つと言えるでしょう。

 

国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト:

https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/12668-sfts-ra-0801.html

厚労省のSFTSのページ:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169522.html

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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2015年3月のシンポジウムのプログラムと村越の発表資料を掲載しております。

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