【M-nop letter+】2025年12月号

【目次】

■ご挨拶■

 毎年の事ながら、師走になると「あっという間の一年だった」という感慨を抱きます。その思いは、歳をとるごとに強くなります。特に今年は、退職まで4ヶ月という切迫感も加わりました。

 

 今年は、夏のマスターズの遠征、秋のデフリンピック、研究での北欧出張と、メインイベント満載の年でした。それらの合間を縫って、管理職の間はなかなか時間が取れなかった「引退後の住処探し」にも着手しました。30年来、オリエンテーリングテレインのそばで競技者を寝泊まりさせられるゲストハウス付きの自宅を建て、後進を育成することを漠然と思い描いてきました。そのため、富士宮・富士の国道469周辺の土地を探し始めました。昨今はウェブで売りに出されている土地はいくらでもあります。その上に、一度ある地区の土地を見ると、周辺の土地がどんどんブラウザで紹介されます。土地を見つけること自体はなんの苦労もありませんでした。しかし、この地域は基本的に市街化調整区域なので、気に入っても入手が難しい、建築条件が希望通りでないなど、不動産の奥深さを知りました。紆余曲折がありながらも、12月に入ってようやく、村山浅間社からもほど近い粟倉地区に土地を購入できる見通しとなりました。

 

 購入後は、30年来の夢を具現化できる住居を建てる予定です。来年の今頃には、競技者受け入れだけでなく、その家を拠点に、読図やリスクマネジメントのセミナーを開催することを考えています。そこで皆さんとナヴィゲーションスポーツやリスクマネジメントを実践し、また語ることができることを楽しみにしています。来年もよろしくお願いします。

■現在・今後の活動■

詳細は「現在・今後の活動のご紹介 」からご覧いただけます。

<主催事業>

  • 静岡大学公開講座(登山者のための読図)
  • 有度山トレイル三昧2026【スタッフ募集】
  • ナヴィゲーションアスリートのためのトレーニングキャンプ new!

<他団体による主催(M-nop協力・村越の講師参加等)>

  • 国立登山研修所オンラインセミナー(2024年)オンライン動画アーカイブ

<村越が関わる国際イベント>

  • スキーO世界選手権(2026.03.01-)
    3月1日より北海道のルスツリゾートで開催されます。
    日本開催は2009年についで2度目となります。
    フットO以上にマイナーなスキーOはヨーロッパ以外での開催は日本の2回のみです。しかも、近年では、温暖化のため北欧以外では開催が難しくなっており、日本での開催が期待されていました。
    両手の塞がるクロスカントリースキーで時には時速50kmで疾走しながら的確にルートを選択する様がスキーOの見所です。
    併設の大会も用意されていますので、観戦と参加の両方を満たすこともできます。
    大会URL: https://wsoc2026.jp/

■最近の活動から■

【デフリンピック運営記】

 11月15日から26日の会期で、日本初のデフリンピックが東京都で開催されました。パラリンピック以上の100年の歴史を持つ大会ですが、残念ながらまだまだ知名度と関心は十分に高いとは言えません。大会終了後、スポーツ系の授業で聞いたところ、さすがに知らない学生はいなかったものの、報道などでプレーをみた学生は1,2名でした。オリエンテーリングの競技責任者としてがっつり係わりましたので、舞台裏を含めたデフリンピックの様子をレポートします。

会場:なぜ日比谷と大島なのか?

 オリエンテーリングにはアーバン(都市)とフォレスト(森・野山)という大きく二つの種目があり、現在世界選手権では奇数年フォレスト、偶数年アーバンという形で開かれています。デフリンピックではその両者が行われ、種目数は6種目にもなります。

 

 アーバンの舞台となる都市公園は、東京都では事欠きません。代々木、あるいは野川など規模的にも特徴的にも十分な環境です。東京都庁回りの新宿も、公園や多層構造が連接し興味深いでしょう。週末なら大学キャンパスも可能性があります。しかし、東京都が提示してきたのは日比谷公園でした。

 

 東京都は、知名度という点で今一つのデフリンピックを都心で実施することで、PR効果を狙いたかったようです。日比谷では狭く、アーバン3レースは難しい。周囲の官庁街は使えないか?あるいは皇居前広場では?そんなアイデアが出ましたが、結果的に両者のハードルは高く、利用することはできませんでした。一方で民間の土地は所有者さえOKであれば利用可能なので、日比谷ミッドタウンがスタートになりました。

 

 ミッドタウンの西側2階には、日比谷公園を借景としたお洒落なテラスレストランが5軒ほど並んでいます。早朝に開催したのでさすがに開店前ですが、その脇の幅2mくらいの通路を選手が疾走する姿は、残念ながら私は見ることができなかったのですが、想像するだに楽しく、日比谷でやった甲斐があったと思えるものでした。

 

 このエリアは日比谷通りによって公園とは隔てられています。地下鉄の地下通路を想定していることは容易に想像できますが、「改札は閉鎖します。通路は通行を規制して占有します。」その上、最終的には日比谷公園の大部分も利用者を規制して占有状態となりました。これは、公園や地下鉄が通行者とのトラブルにびびった結果なのですが、それにしてもさすが、東京都!

地下鉄日比谷駅には随所にオリエンテーリングのポスターが貼られた。「駅構内は走らない」というルールのため、この地下道を疾走する選手の写真は公開NGとされた(苦笑)。
地下鉄日比谷駅には随所にオリエンテーリングのポスターが貼られた。「駅構内は走らない」というルールのため、この地下道を疾走する選手の写真は公開NGとされた(苦笑)。

結果的に日比谷公園で実施したことは、オリエンテーリングの大きなPRになりました。開催までの数週間、地下鉄日比谷駅の地下道には、当日の規制を予告するポスターが貼りまくられていました。当日も、デフリンピックで初のメダルが決まる種目ということで、100名を超えるメディアが訪れました。日比谷の高層ビル群を背景に仰ぐ表彰式は印象深いものでした。

日比谷ミッドタウンをバックにした表彰式。木々の葉っぱも紅葉と高層ビルが大会に華を添えてくれた。なお、各種目はウクライナが圧勝。
日比谷ミッドタウンをバックにした表彰式。木々の葉っぱも紅葉と高層ビルが大会に華を添えてくれた。なお、各種目はウクライナが圧勝。
スーパースプリントリレーのスタート風景。これも二度と見ることができない光景かも・・・
スーパースプリントリレーのスタート風景。これも二度と見ることができない光景かも・・・

 一方、フォレストの方は我々にとっても悩みの多い意思決定でした。東京のテレインと言えば八王子か青梅。世界大会にふさわしい森を提供できるようには思えません。自転車やサッカーのように、東京都外で開催するなら、やはり静岡だろうか・・・。そう考えていたある日、天啓のように「大島」という選択肢が浮かび上がりました。伊豆大島は、1986年に初めてカルデラ内が地図化され、その難度の高さから噴火後にカルデラ内への立ち入りが許されてからも、何度も再調査され、多くのオリエンティアを魅了してきました。これなら世界レベルの地図とコースが提供できる!

 

 船でしか渡れない離島である大島は、準備も大変でした。競技の中核にいる私たちは、コース準備で2度現地に脚を運ぶことができましたが、大会で初めて現地に赴く一般のスタッフは不安だったと思います。また、現地では大会期間中は基本的に外輪山上にある大島温泉ホテルに缶詰となるため、行動の自由も利きません。スタッフにとっては、辛いところもある運営となったことでしょう。

 

 それでも、大島での実施は大きな意義がありました。まず大島町での唯一の種目開催となったことです。それによって、町民も選手団の来島と離島時には盛大に出迎え見送りをしてくれました。

選手たちにとっても思い出深い場面となったことでしょう。 

大島では町民が太鼓で選手団を見送ってくれた。選手に勇壮な響きを伝えることができなかったのは唯一の心残り。
大島では町民が太鼓で選手団を見送ってくれた。選手に勇壮な響きを伝えることができなかったのは唯一の心残り。

また本土にはない魅力や火山といった日本以外ではなかなか訪れることができない場所での開催も、選手にとっての楽しみにつながったことと思います。何より、印象的で挑戦的なテレインとコースを提供できたことは私たちの誇りです。 

三原山(中央奥)のカルデラは、選手に魅力的な光景と挑戦的なテレインを提供した。
三原山(中央奥)のカルデラは、選手に魅力的な光景と挑戦的なテレインを提供した。

SDとのコラボ

 国際大会では、必ず国際組織を代表したアドバイザーが派遣されます。アドバイザーと言うものの、テレイン選択から要項の発行、コース決定まで多くの最終決定権限を持っている権力者です。オリエンテーリング連盟の場合、SEA(シニア・イベント・アドバイザー)と呼ばれており、デフリンピックではSD(スポーツ・ディレクター)と呼ばれています。彼らとの協働は、大会の成否を大きく握っています。国際大会で最も気を遣う作業の一つです。

 

 今回は、1年前までSDを務めていた方が「ロシア籍」であることを理由に解任され、最終的なSDが決まったのが2025年の初夏でした。また、彼らもデフであることから、コミュニケーションには、私→手話通訳者1(健聴者で、日本語手話ができる)→手話通訳者2(ろうあ者で、日本語手話と国際手話ができる)→SDというコミュニケーションにもなりますし、返答はやはり2段階の通訳を経て私たちに戻ってきます。これら二つの事情から、「なかなか面倒なことになるなあ・・・」というのが正直な気持ちでした。

 

 たまたま、私も彼も、8月にスペインで開催されたマスターズに参加していたことから、彼の方で、私を訪ねてきてくれました。手話なしのコミュニケーションボードを使ってのやりとりで、十分に意思疎通ができたとは言えませんが、親しみやすい人柄にはほっとしました。さらに、9月になって日比谷の地図に次々と要望がきます。「ここの地図表記がおかしいのではないか」、「ここは危険だから、幕で明示が必要だ」等。日本に来たことのない彼は、なんとストリートビューを利用して現地を確認し、現地と記号の整合性を指摘していたのでした。剣豪の対戦で言えば、立ち会った瞬間に「おぬしなかなかできるな」といった感じでしょう。

 

そこまでできるなら、技術的にも十分な力量を持っているだろう。後で知ったことですが、彼は私と同じ2006年のデンマークの世界選手権に出場し、ロング42位、ミドルは30位代ですから、私と同等か少し上の実力の持ち主でした。日比谷でのチェックをしていたある時、彼が「こっちで写真を撮ろう」と言います。そっちにはコントロールはないんだが・・・。行った先は、「首かけ公孫樹」。明治以前からある大樹です。私が、「明治初期に日比谷通りの交差点にあったものを道路拡幅で切り倒そうとしたこの木を東大農学部の本多静六が、「(移植が難しいとされる公孫樹を)私の首をかけても移植を成功させる」といったことから、この名があると説明しようとすると、「ああ、知っているよ」という感じの素っ気ない反応。すでに調べてあるようでした。

 

技術的にはほぼ同水準で、興味の志向性が似通っている彼とは、気持ちよく仕事ができました。彼のSNSでも、「プロフェッショナルな技術的サポートをしてくれた」と、お褒めの言葉をいただきました。

SDのトーマス・クズミンスキー氏とのコラボは時に軋轢もあったが、概して楽しかった。剣豪同士の認め合いみたいな気持ちになれたのも、音声でコミュニケーションがとれなかったせいかもしれない。
SDのトーマス・クズミンスキー氏とのコラボは時に軋轢もあったが、概して楽しかった。剣豪同士の認め合いみたいな気持ちになれたのも、音声でコミュニケーションがとれなかったせいかもしれない。
大会を支えてくれた東京の竹内さん(右端)、手話通訳者の方々、デフ協会の方々などと記念撮影
大会を支えてくれた東京の竹内さん(右端)、手話通訳者の方々、デフ協会の方々などと記念撮影

開会式

 日本オリエンテーリング協会の会長には、この6月より野田聖子代議士にお願いしています。デフリンピックでは彼女も組織の代表として開会式に出席してくれましたが、NFにはもう1席割り当てがあるという。お話できる機会でもあるので、お供したところ、なんと国会議員は別席。ろくにお話もできずに、開会式を見る羽目になりました。

 

 なんで2時間半もかかるのだろうと予定表を見て思いましたが、その謎は始まって氷解。4000人もの選手がいると入場行進だけでも40分もかかるのでした。 

開会式風景。音がないというほどではないが、スポーツ大会特有の熱狂的な音量はない。そこが不思議な感じ。
開会式風景。音がないというほどではないが、スポーツ大会特有の熱狂的な音量はない。そこが不思議な感じ。

その後は、パフォーマンス。最近の国際大会では、抽象的なストーリーを届けようとするパフォーマンスが多く、デフリンピックも例外ではありません。BGMは入っていたように記憶していますが、音でごまかせないという制約の中で、「無意識のくびきから解放される」という、障がい者スポーツ大会らしいメッセージはうまく伝わってきました。

 

 この開会式でそれ以上に印象的だったのが、主賓の挨拶です。開催都市東京の小池百合子都知事が挨拶するのは当然として、その前に高市早苗首相が挨拶。いったいこの国は本当にジェンダーバランス指標が世界で130位だかなんだろうか?と思ってしまいました。どうせなら秋篠宮皇嗣殿下ではなく、佳子様が挨拶したら国外に対してもっとインパクトがあったのに(苦笑)。

 

 開会式の後は、品川のホテルに戻って、翌日のリレーに備えました。

(次回は運営の楽しみ、そして皇族をお迎えした様子をご紹介します)。

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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