新しい年度となりました。本年度で当法人は22期を迎えます。法人の活動に大きな変更はありませんが、私も3月末で退職したことから、これまで温めてきたリスクマネジメント部門の恒常的な事業化を進めていきたいと考えています。
これまで「自己責任」と漠然と言われる一方で、法律上は事故が起こった場合には「業務上過失致死傷」を問われる可能性があるといったあいまいな状況でアウトドアイベントは開催されてきました。それだけでは済まない事例も発生しています。こうした状況を適切に管理するためにリスクマネジメントが必要なだけでなく、参加者自らが自他の命を守れるようにすることも重要なトピックだと考えています。
リスクを適切に扱える能力は、リスクリテラシーと呼ばれています。これについては、すでに科学や先端のテクノロジーに関して議論されているものの、個人的なリスクに関しては想定されていません。しかし、アウトドアの世界においてこそ、個人の能力としてのリスクリテラシーが必要になります。それはアウトドアに出る上での基本的能力(ナヴィゲーションや体力と同じように)と考えています。
5月には総会が開催されます。コロナ禍以降オンラインで開催しています。昨年度の法人の活動を振り返ったり、上記のようなトピックについての話題提供も行います。近日中にお知らせが届くと思います。時間が許せばぜひご参加ください。
詳細は「現在・今後の活動のご紹介 」からご覧いただけます。
<主催事業>
<先の予定>
長年、いつかは来たいと思っていたハドリアヌス城壁トレイルを、退職旅行と思って実行に移しました。ロンドンで大学教員をしている旧友が「面白そうだな」と言って同行してくれることになったのが、最後の一押しでした。併せてコロナ禍のころからずっと憧れていたスコットランドのスカイ島(Skye)、イギリス最大のオリエンテーリングフェスティバル「Jan Kjellstrom杯」にも出場しました。今回はハドリアヌス城壁トレイル歩きのレポート。
ハドリアヌス城壁はイギリスのニューキャスルからカーライルの間で、ブリテン島がもっとも狭くなっている場所に作られた城壁で、概ね100kmに及びます。ローマ帝国のハドリアヌス帝が、ここから先はもう価値のない土地なので、ここを帝国の北限とし、北方からの民族の侵入を防ぐために作った城壁です。中国なら万里の長城、日本で言えば多賀柵です。
これが現在のスコットランドとイングランドの境界に影響を及ぼしたと言われています(現在のイングランドはもう少し北まで広がっている)。ハドリアヌスの言葉をアウトドア風に翻訳するなら、「ここから先がOMMに適している」ということになります。実際、湖水地方を除けば、イングランドでのOMMはハドリアヌス城壁より北で行われています。これらのエリアは山に入ると泥炭で泥びちゃ。最初に訪れた時に、「だから選んでいるんだ」と妙に納得したものでした。
このハドリアヌス城壁には、現在約130kmのトレイルが整備されており、「Hadorian Wall Trail」と呼ばれています。イギリスの地方主要都市をほぼ直線でつないでいるので、道路、鉄道も走っており、アクセスも比較的よいし、登距離も全体で2000mと、まず手ごろ。今回はニューキャスルから少し内陸に入ったところからスタートし、湖水地方への玄関口であるカーライルの少し手前の駅に降りてきました(図1)。
トレイルの核心部は、中央部にあります。東西に延びる細い丘がいくつかの鞍部によって区切られています。その多くはスコットランド側が急斜面になっており、地形を活用した堅固な城壁となっています。その分何気にタフで、ボディーブローのように効いてきます。おまけにこのあたりは緯度で55度ほど。いくらメキシコ湾からの暖流にさらされるとは言え、4月初頭にはまだ寒い。しかも、イギリス特有の時々突風が吹いてきて、にわか雨が吹くという天気にもてこずりました。初日にはたっぷりひょうも降ったのです。
しかし、かなりの距離残るローマ時代の城壁、そのところどころに建造されている見張り塔やのろし場、あるいは駐屯地、土堀など、1900年の歳月を超えてそこに存在していることを驚異とローマ人への畏敬を感じながら歩きました。城壁は完全に残っているわけではなく、部分的にはかなり崩壊しています。その多くは、後世に地元の人が自分たちが牧草地を囲い込む時に使ってしまったようです。
イギリスと言えばB&B。そしてイングリッシュブレックファスト。途中2泊したうち1泊は田舎のホテル、二泊目がB&Bでした。宿帳を見ると、「朝食はゴージャス」と書かれていたので期待しましたが、期待に違わぬ豪華版。ベーコンが厚切りのロースである点が日本とは違うところ。宿は地産地消の推奨者のようで、スクランブルエッグの卵やイチゴジャムは自家製。その他の食材もそこからどの程度の距離で採れたものかを掲示する念のいりよう。雨・寒風の中を歩いていると、この食事こそが最大のアウトドア装備、と思わずにはいられません。
3日目はカーライルを目指して歩きます。天気も終日曇りの絶好のトレイル日和。起伏の緩やかになり、イギリスらしいのどかな田園風景の中を歩きます。石材入手の関係もあるのでしょうか?最後半では、城壁はほとんどなく、堀による防御が主になります。
イースター休暇も近づいているとあって、途中何人ものスルーハイクらしい人に出会います。初日、彼らの荷物が結構コンパクトなのに違和感を抱きましたが、スルーハイク用の荷物サービスがあることが初日の宿でわかりました。ツアーもあって、日程を見ると、6日程度が標準。全行程をカバーしなかったことを考えても、我々の2泊3日の行程は強行軍に相当するのでしょう。もう少し時間をかければ、途中の博物館や城郭の展示なども見ることができたのでしょう(図8~10)。