コラム145:コロナ感染リスクと所得水準

 3月に、コロナウイルスの感染が広がりつつあるころ、23区の新型コロナウイルスの感染数の地域的偏りが気になっていた。港区とか杉並区とか、なんか裕福な場所で発生が多くないかな?バイアスの掛かった予測で申し訳ないが、多そうな下町地区の発生も当時はほとんどなかった。最近別件で、区ごとの感染数を調べたついでに区民一人あたりの所得との関連を検討してみた。区ごとの感染者数も10万人あたりの発生数も公表されている。別途、区民ひとりあたりの所得も簡単に入手できた。

 

 二つの変数の間に(直線的)関連があるかどうかの指標である相関係数を算出するとr=0.335で、意外と低いなあ、という印象。相関係数は1が最大値で、0の場合は無相関(関連がない)、一般的には0.4を越えると中程度の相関と呼ぶ。それに達しない訳だ。

 

 散布図(図参照)を描いてみると、所得と感染数の直線的な関係から外れる値(外れ値)が一つある。所得に鑑みて異様に感染者数/対人口が多いのだ。お察しの通り新宿区である。歌舞伎町を有する新宿区は、緊急事態宣言解除後、いわゆる「夜の街」の感染が多発していた。別の要因が働いている可能性がある。

 

 そこで新宿区を除いて22区で相関係数を計算すると、r=.713となった。一般的に強い相関がある、という値だ。データの種類にもよるが、研究者はこれくらいの相関が出たら結構嬉しい。所得は感染数を50%くらい説明していることになる。

 

 こうしたデータから、その背後にあるメカニズムを推測するのは研究者の習性だ。さっそくFBにアップすると、アメリカに在住する知人が「アメリカとは逆だ」というのだ。アメリカでは、所得が低いほど感染が多いらしい。確かに所得が低ければ衛生状態が悪かったり、衛生観念が低かったり、医療的対応を受けにくかったりするだろう。ではなぜ逆か?

 

 私の推論はこうだ。このデータは7月初期のものなので、まだ第二波の影響は大きくない第一波の影響下にあるデータだ。第一波では基本的には感染は海外由来だ。海外に出かけ、そこで濃厚な接触をする層は比較的所得は高いだろう。また海外からの渡航者と濃厚な接触があるのも、比較的社会的な階層の高い層だと考えられる。結果として、比較的所得の高い層の感染が多く、結果として所得と感染数の相関が高くなった。

 

 もう一つの要因は、コロナウイルスの感染力があまり強くないことかもしれない。物理的接触は、大都会なら所得階層間でも発生するだろう。しかし、会食や対話といった濃厚接触は仕事仲間にしろ趣味仲間にしろ、思っている以上に社会階層に制約されているのかもしれない。結果として同一の社会階層には広まり易くても、それ以外の階層には広がりにくい。結果として、所得と感染の関係が維持される。

 

 3月ごろ、密度が高いことからパチンコがやり玉に挙がっていたが、私はおそらくパチンコでは感染は当面ないだろうと思っていた。まず会話がないこと。そしてコロナを持ち込んだ社会階層との接触が少ないと考えられること。今のところ、パチンコでクラスターが発生したというニュースはないので、あながち、その推論は間違っていなかったのだろう。

 

 ソーシャル・ディスタンシングが問題になるということは、社会行動が感染の重要な要因になっているということだ。だとすれば感染防止策には人文社会学者の出番があるはずだ。専門家会議では経済学者は採用されているが、残念ながら社会心理学者や行動科学者は採用されていない。オールジャパンで立ち向かうなら、人文の知も活用したいところだと、我田引水ながら思う。

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